くらし

『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』著者、太田 哲雄さんインタビュー「原種の果物や野菜の味を知ると驚きますよ。」

おおた・てつお●1980年、長野・白馬生まれ。食への興味は人気テレビ番組『料理の鉄人』がきっかけ。高校時代からアルバイト代を握りしめ、名だたるレストランを食べ歩いた。本書が出て、大学でカカオを医学的に研究する人から連絡がきたり、新たな繋がりを感じているという。

撮影・森山祐子

蜂の巣にナイフを入れてハチミツを必要なだけ取ったら切れ目をそっと戻す。ゾウムシの幼虫はおいしいおやつ。ペットのナマケモノと一緒に床について、長老からは村の行く末を頼まれる。

いつ、どこ、なんの冒険譚?と思われそうだが、本書は、太田哲雄さんの海外料理武者修行を綴ったエッセイだ。その経歴は、一筋縄ではいかない。19歳でのイタリア語学留学に端を発し、料理人としてイタリア、スペイン、ペルーで11年間の修業を積む。先鋭的な料理で話題をさらった『エル・ブジ』に在籍する一方、伝統料理を出す家庭的な店でも働いた。

「エル・ブジでは突き詰めた料理をやっていました。でも私にはスペイン料理の基礎がなかった。いつまでもしっくりこなくて」

他国の料理を学ぶとき、そこには尊敬の念がなくてはならない。国の風土、ルーツを知ること、それが大事だと気づかされた。自分はどんな料理人になりたいのか。フードロスがつきものの最先端料理の在り方は自分が目指す方向とは違うと感じたのもこの頃で、

「私は、料理人として、社会に対し自分が貢献できることをやっていければいいと思ったんです」

当時、料理界で話題になっていたのは南米ペルーの料理だった。

「調べてみると、トマトの原種はアンデスにあったり、様々な果実、野菜の起源がペルーにある。これは食材のルーツを探す旅にもなる。それに、ペルーには料理で国を動かすと言われる料理人ガストン・アクリオがいて、その店で働きたいという気持ちもありました」

巨大な魚や様々な種類の唐辛子、濃厚な味の鶏の原種などアマゾンの食材と身近に触れ、アマゾンへの思いが膨らんだ太田さんは、一時帰国を挟みながら現地を何度も旅し、食、生きることの本質を身をもって感じ、考えた。

「3回目かな、カカオ村を訪ねて無農薬のカカオを食べたらすごく美味しくて。でも村は貧しく、明るい展望もないような状況で」

しかし、長老や工場長と話すうち、問題点も見えてきた。「村を頼む」と伝えられたのもこの時だ。

「私もこの土地になにかしら還元したいと思っていたのでお引き受けしました。帰国して日本の料理人たちにこのおいしいカカオを知ってもらいたいとあちこちに声をかけて。この夏は、京都の料理人の先輩方をカカオ村に案内する予定です。皆さん、『カカオの兄ちゃんとアマゾン行くんや』と楽しみにしてくれているようです(笑)」

講談社 1,500円

『クロワッサン』971号より

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