『隣り合う』 著者 青野 暦さんインタビュー ──「言葉によるスケッチが小説になりました」
撮影・石渡 朋
深い青色のカバーに鳥と文字が羽ばたく『隣り合う』。青野暦さんの第一作品集だ。本の頭に置かれたのは、文學界新人賞を受賞したデビュー作「穀雨のころ」。揺らぎながら、未分化で、個でありながらともすれば人に似ようともする若き心を反映したかのような高校生たちの群像劇で絵を描き、詩を書いていたエミは、2編目の「夢と灰」で美術史を研究する大学院生になっている。エミの絵のモデルをつとめたことをきっかけに自分も絵を描くようになり、美大へ進学したハツが再登場するのが「草雲雀日記抄」。
「登場人物がつながっていく、連作といってよい3作です。『穀雨のころ』を書いたことで浮かび上がってきた、人物を書き分けるという課題に自分なりに向き合ってみた、その結果でもあります。彼らのことは、歳を重ねていくのを追いながら書き続けたいですね」
続く「透明」は、詩人としても高い評価を受ける青野さんが師と仰ぐ、詩人の福間健二との別れを綴る私小説的な掌編。〈いま、この世界で、他者と他者とのあいだに風が吹き荒れて、次々に閉じていく扉を、ノックするんだ。それが、詩だ。〉など、「詩の考えかたで小説を作ろうとしている」青野さんの道を照らすいくつもの言葉と光景が書き付けられる。
夏の時間をともに過ごすような心地よい表題作
表題作となった「隣り合う」は書き下ろし。出版社の校正部に勤める男の夏の一日を描く。
「能天気な話が書けたという意味で気に入っています。それがなんであるかと制度の側から名指されない、でたらめのメモを書く楽しみを、俳句を詠んでみるという状況に重ねました」
新宿の書店からラーメン屋、恵比寿の写真美術館とアイスクリームショップへ。徒歩のような快いリズムで作中の時間が動いていく。
「登場人物の目に映るものを綿密に描写する。それをとおして読む人にも景色が見え、同じ場にいるように感じてもらいたいんです。本を開けば再生できる記憶のように、読み手の中に小説の言葉が残ってほしいという願いがあります」
青野さんの作品には、絵、詩、映画、音楽がたびたび登場する。なかでも絵に焦点を当てた場面が印象深いのは、美術史専攻という作家の経歴につながっていそうだ。
「絵が好きなんです。空間芸術である絵画を言葉で表現しようとすると、読み手の時間とともに進む時間芸術に変化するのが興味深い。美術作品を言葉で記述するディスクリプションの技術を学んでから、その日に見た景色を思い浮かべて言葉でスケッチするようになりました。どんな日のことも、書いて捉え直せば美しい瞬間が見つかるというライフハックでもあった。セザンヌがリンゴを描き続けたように、モチーフに頼らず書き方によって作品をおもしろくする。それを小説でやりたいという無体な欲求に従ってこれからも書いていきます」
『クロワッサン』1175号より
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