『そいつはほんとに敵なのか』著者 碇 雪恵さんインタビュー ──「他者を理解することで、自分の今がわかります」
撮影・中島慶子 文・クロワッサン編集部
今回の書籍が碇雪恵さんの初めての商業出版。組織に過剰適応しようとしてしまう自分に疲れ、会社員の立場を手放しフリーライターとなった。2022年に出した自主制作のZINEが編集者の目に留まったことが縁を結んだ。
駅で怒っている高齢男性やコワーキングスペースを散らかして帰る利用者に憤慨し、町で困っているおばあさんや酔い潰れた若い女性を介抱する。仕事で知り合う人を友と呼べるのか悩み、身内としてのパートナーの作り方を模索する。リアルにそこにいる相手に向き合い、自分の心の動きを俯瞰し綴ったのが本書だ。
ほかの人があまり思いを寄せずやり過ごすような、ちょっと困った対象にも、あえて距離を詰めるのはなぜですか?
「自分でもなんなのだろうと思いますが、そういう人に目が行き心が動きます。自分の心が反応した理由を知りたくて書いているところがある。体も反応して心拍数が上がるので、自動検知するダウジングみたいなものです(笑)。私は不快感にすごく弱くて、お腹が空くのも眠たいのもダメだし、ゲームで負けるのもいや。だからこそ心身の負荷から逃げずに書こうと」
世はSNSの時代。前書きで〈言葉だけを用いたSNS上の空中戦のようなやり取りでなく、体を持ったいち人間同士として向き合い、逃げずにコミュニケーションを取りたい〉と書く碇さんの、本書は他者との距離を模索した精神のフィールドワークの記録なのだ。
「小説家の海猫沢めろん先生がポッドキャストでインタビューしてくれた時に『他人のことをすごく考えて、それを自分のことを知るのにフィードバックさせていますよね』と言われて、そうだなと思いました。日々出会う、目についた人のことを考えていくと、自分の理解にもつながると思うんです」
考え続けていくためにマイルストーンを打つ
印象深いのは“自分が支持しない政党に投票した人に会いに行く”という章。強い主張で話題になり大躍進したという報道に〈嘘だろ、と思った〉、その党の支持者を討論番組で見て取材を申し込む。〈(党から)放たれるヴァイヴスがとことん肌に合わない〉と言いながら。
「どういうことであの党を支持するんだろう、と本当によくわからなかったけれど、聞いてみると地方在住で目の前の人との関係や草の根的な繋がりの存在があると聞いて、なるほどなと思いました。それがその人にとってのリアルなら『それは違うよ』とジャッジできないものがそこにはある」
本文中に頻繁に〈今はこう考えていることを記しておく〉とマイルストーン的な記述がある。
「人間の考えはけっこう変わるという前提があるからです。自分の残像みたいなもの。私は研究家ではないので、どこかに行くまでの途中に打つ杭みたいなものを大事に考えています。これからも思考を止めず続けていくためにも」
『クロワッサン』1170号より
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