しなやかで温かみのある風合いが魅力的なブルーグレイのお対(着物と羽織が同素材)の紬を、さりげなく着こなした田中健さん。
「義理の祖父は米沢の出身。これは同じ山形県の白鷹町に伝わる『白鷹紬(しらたかつむぎ)』です」
白鷹紬は300年前に、ときの藩主・上杉鷹山によって推奨され、地場産業として定着した先染め織物。素朴さのなかにも品格のある光沢感が特徴だ。
「この白鷹紬にはエピソードがあるんです。祖父には3人の娘がいて、連れ合いには故郷のことを知ってほしいと願い、伝統工芸品である『白鷹紬』を3反購入したんです。結婚の際に手渡したそうですが、そのうちの1反が縁あって、孫にあたる私の妻の手元に」
その白鷹紬を仕立てたのは8年前のこと。そこにもまたひとつのエピソードがあった。
正月番組で『オールスター家族対抗歌合戦』に出演することになり、僕の母から『私は着物を着るからね』と連絡があり、それならば、家族全員で着物で出ることにしようと。僕も祖父の思いがこもった白鷹紬を仕立ててもらい、歌を楽しみました。その時に母がものすごく喜んでくれて……。亡き母との思い出のひとつになりました」