練習に打ち込む毎日。しかし、高校生なら将来のことも考える。好きだから続ける、という単純なものでもなくなってくる。
主人公も、これまで大きな挫折を経験してこなかったが、怪我をきっかけに、チームメイトと温度差を感じ、「なぜバレーを続けているのだろう」と悩む。
そんな当たり前だった日常のバランスが崩れた時、怪我をした夜に出会った女子生徒が彼の前にやってくる。彼女もまたある悩みを抱えていて、2人の物語は共鳴してゆく……。
実は、景にとってのバレーは、坪田侑也さんにとっての小説と重なる部分があったという。
「楽しくて始めたことが苦しくなった時に、『でも好きだから』と答えられる人もいると思うのですが、自分はそう簡単には思えなかった。好きとか嫌いを超えた、自分と切っても切り離せないような関係になっている。そんな葛藤を主人公に託していました。だから今しか書けない、書かなきゃいけない小説だったのかなと思います」
繊細な感性が紡ぐ真っ直ぐな感情的到達は、私たち読者の心にみずみずしく染み込む。そして、彼らが出会いながら乗り越えてゆく様には、「心配しすぎないで」と言われている気持ちになる。
彼らは葛藤の末、どんな答えを見つけるのか。悩みながらも進んでゆく姿に、勇気づけられるのは大人になった私たちだ。