緑川は少し変わった存在感を持つ同級生・星野に「一緒に探偵小説を書かないか」と誘いを受ける。原口は、風采の上がらない先輩教師の石坂と関わりを持つように。物語は、2人の中学生と彼らが紡ぐミステリーの世界、2人の教師が追い求める「謎」という複雑な入れ子構造を形作りながら走りだし、絡み合い、集約されていく。
まず驚くのは、執筆時15歳の坪田さんが大人の目線を獲得していることだ。
「中学生の世界だけで書くと物語が単調になってしまうし、大人の立場を書いてみたいと挑戦する気持ちもありました。台詞回しが難しかったですけれど」
劇中劇を含む3つの視点という複雑な構成には苦心した。
「中学生パートと大人パートを別々に進めていて、夢中になって書いていたら、途中で時系列が合わなくなって。提出する直前に気がつき、慌ててカードにプロットを書き出して修正しました」
そしてこの作品をより魅力的にしているのは、随所にちりばめられたリリカルな心象風景だ。
中学生2人が図書館の屋上に上り、景色を眺める場面がある。
〈俺は一度だけ、スマホを取り出して写真を撮ろうとしたが、画面に映った景色が、あまりに現実と違って、色褪せて見えたのでやめた〉
青春時代に携帯がなかった世代にもわかる、この永遠の一瞬の尊さよ。作中、緑川は、書くことへの抑え難い気持ちを幾度も吐露する。
〈頭の中に湧き出てきた表現を、消えてしまわないうちに打ち込んで、吐き出してしまいたかった〉
〈「俺は、小説書いて生きていきたいんだよ!」そう叫ぶと、俺は自室に駆け込み、ベッドに倒れこんだ〉
坪田さんが「自分の気持ちをぶつけました」と語るこれらの言葉は、新星の誕生のような熱量の高い煌めきを見せ、眩しい。
現在、次回作を構想中。
「自分がいちばん読みたいと思う作品を書きたい。疾走感のあるエンターテインメントが好きです。謎が謎を呼ぶ、みたいなもの」
文学という広大な野に降り立った若武者、ぜひとも見守りたい。