くらし

『待ち遠しい』著者、柴崎友香さんインタビュー。 「年の離れた人同士の交流を描きたかった」

  • 撮影・黒川ひろみ(本) 大内香織(著者)
デビュー20周年を迎える著者が、境遇の異なる人びとの交流を描いた。毎日新聞での連載を書籍化。毎日新聞出版 1,600円
柴崎友香(しばさき・ともか)さん●1973年、大阪生まれ。2000年に初の単行本『きょうのできごと』を刊行。’10年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞(のちに映画化)、’14年『春の庭』で芥川賞を受賞。ほか著書多数。

「若い頃は同年代の似たような境遇の人としか話さなかったけど、40代に入ると、上にも下にもひと回り以上年の離れた人とも気軽に話せるようになったんです。世代によって考え方が全然違うのが新鮮で。年齢も価値観も異なる人たちが同じコミュニティで過ごしたらどうなるのか、書いてみたくなりました」と柴崎友香さん。

住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしをする北川春子、39歳。亡くなった大家さんの娘で母屋に越してきた63歳、夫を亡くしたばかりのゆかり。裏手に住んでいるゆかりの義理の姪、25歳の沙希は、新婚で早く子どもが欲しい。年齢も性格も違う3人によるどこか温かく、時に面倒なご近所づき合いを描いた長編小説だ。

一人暮らし歴10年、趣味は消しゴムはんこ作り。一人の時間を大事にしたい春子だが、世話好きのゆかりに誘われ、初対面の沙希と3人で夕食を囲むことに。春子が自己紹介をするや否や沙希は〈一人暮らし、変わってますね〉〈子供いないなんて不安じゃないですか〉などと歯に衣着せぬ物言い。3人の立場があまりに違うからか、共通点を全く見いだせないまま会話は進む。しかし、不思議なことにそのずれは春子にとって受け入れがたいものではなかった。

「沙希の言葉に、春子は“なんでそう考えるんだろう”と、日常生活での違和感や自分の価値観を見つめ直す。考え方が違っても、共通点がなくても気持ちがわかることはあるし、たとえわからなくても想像することはできますから」

外から見たら気づけなくても、誰もが事情を抱えているもの。

褒められるとすぐに自分なんて才能もないのに、と口に出す春子に〈そんなの誰が決めるの?〉とゆかりが強い口調で問う場面。

「仕事に家事。まだ足りない、もっと頑張らなきゃと、世の中全体が目に見えない圧力に苦しめられていると常々感じていて。自由に生きているように見える春子も、実は知らず知らずのうちにその圧力に悩まされていたことに気づく。でも、〈堂々としていればいいじゃない〉というゆかりの言葉で、今の自分をもう少し認めてあげようと変わっていくんです」

夫婦関係に悩む沙希。娘と絶縁状態のゆかり。言葉を交わしていく中で、春子は彼女らもまた生きづらさを抱えていることを知る。

「外から見たら気づけなくても、誰しもさまざまな事情を抱えているものですよね。相手を知るにはまず話をしてみることが大切で」

会話を通してなにが生まれるのかを丁寧に書きたいのだという。

「意外な答えが返ってきたり、生身の人間同士の反応が見られるからこそ会話は面白い。書き進めているうちに当初は予想していなかった発言が浮かんでくることがあって。あ、この小説の世界ができてきたなとうれしくなる。私自身、その瞬間をずっと待っていますね」

年齢の違いで生じる、時にわずかな、時に大きな隔たりと、真摯に向き合う様子を見守りたい。

『クロワッサン』1004号より

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