大畑友美さんの「介護をした経験から描けた未来図(2)」【助け合って。介護のある日常】
撮影・村上未知 構成&文・殿井悠子
「自分らしく、ありのままに。
育てられたように介護をしていた。」大畑友美さん
華やかな香りで幸福感に包まれるローズアブソリュート、教会や寺院でも使われ、神聖な気持ちになるフランキンセンス――。これらは、アロマセラピストでもある大畑友美さんが、末期がんで昏睡状態にあった母・洋子さんにハンドトリートメントで使っていた精油だ。
「母の在宅看護中に、セラピストの資格を持つ介護士さんが精油を使って母の足をトリートメントしてくれたことがあったんです。そうしたら母が『あっちにおんのかこっちにおんのか、わからんくらい気持ちええ』と言って。その頃つらくて眠りにくくなっていた母も、その日はぐっすり眠りました。
セラピストのテキストでは、がんの人にはがん細胞が増える可能性があるのでトリートメントはしないと習っていたので、『時と場合でやっていいんや……、これまで私、何してたんやろ』という気持ちになって。母がホスピスで過ごす最後の数日間は、ありがとうという気持ちを込めて、自分自身で母にトリートメントを施しました」
英国やドイツとは異なり、日本では医療用として精油を使う習慣はほとんどない。友美さんは母親の看護での学びや、自分自身で感じたアロマセラピーの奥深さから、少しでも多くの人に精油の持つ力を正確に知り、日常に役立ててほしいとの思いで、現在家業のほかに精油の販売とアロマセラピースクールをしている。
認知症状があった父・和嗣(かずつぐ)さんの下着の洗濯には、抗菌作用のあるグレープフルーツの精油を使った。「介護用洗剤って独特のにおいがあるんです」。和嗣さんのいたグループホームを後にするときは、ホワイトボードにメッセージを書くのが習慣だった。
「父は、家族のことを常に把握しておきたい人でした。だから、ボードに家族の居場所を書いておくんです。『ここはどこの施設です。お母さんはお腹が痛いので病院、友美は芦屋。来週土曜にまた来るわな。次は紅葉を見に行きましょ』というふうに。そうすると父はヨシ!と安心して、次の週末まで機嫌よく過ごせていたみたい。父が入院していた病院で、リハビリの予定をボードに書いていたのを真似たんです」
正解がわからない介護生活の中で、友美さんはその世界で働く人たちに学び、答えを見つけてきた。そこは、スピード勝負で働く自分の仕事の世界とはまったく違う、穏やかで優しい時間が流れていた。
「口うるさい両親じゃなかったし、好きなこともやらせてもらって。けっきょく、育てられたように介護をしていた気がします」(続く)
『クロワッサン』1096号より
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