くらし

『料理発見』著者、甘糟幸子さんインタビュー。「料理は楽しいもの。それを発見した記録」

  • 撮影・大内香織 文・本庄香奈(編集部)

「料理は楽しいもの。それを発見した記録」

甘糟幸子(あまかす・さちこ)さん●1934年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中より雑誌のフリーライターとして活動。向田邦子らと「ガリーナクラブ」を開く。結婚後、鎌倉に移住。食べられる野草について書いた『花と草木の歳時記』も2017年に復刊。

かつて本誌で連載された甘糟幸子さんの料理エッセイが、この度37年の時を超えて復刊する。当時としては斬新な、スジ肉やタピオカなど、その好奇心からさまざまな食材を発見し、自ら実験を繰り返しながら“おいしい”を見つける「料理」に熱中していた甘糟さん。その冒険家の記録とも言える一冊が再び注目された。

「なんでも、料理家の高山なおみさんが、編集の方に『料理発見』の話をしてくださって復刊につながったようです。久しぶりに私も読み直しましたが、どの章もついこの間のことのように思い出されるから不思議です。食材も生活スタイルもどんどん新しくなるのに、40年近くも腐ることなく、現代に蘇ったことを、とてもうれしく思います」

雑誌連載当時のタイトルは「おいしく食べてますか?」。それを1986年に本にまとめる際に、甘糟さん自ら『料理発見』というタイトルを提案した。

「私は子どもの頃、林を駆けずり回るような少女で、“女ターザン”なんてあだ名まで付けられたくらい(笑)。結婚した時は横浜の繁華街の近くに住んでいたので外食ばかりで、ご飯も炊けなかったんですよ。めずらしい料理をお店で食べていたら、自分でも作ってみたくなったんです。あやふやながらやってみると、意外とちゃんとした一品ができるのでそれが不思議で、おもしろくなって料理に熱中しました」

レストランでの経験だけでなく、食通の友人や近所の人からふと聞いたものなど、気になったものは決して放っておかない。そのうちの一つが「鶏スジ」だった。本書でも紹介のある鶏スジのスープは、甘糟さんにとっても、「伝えたい味」であり、「残したいレシピ」であるという。

残したい味、料理の楽しさ。伝えたいことは本の中に。

「良い店ではきちんと筋を取ってささみを売りに出しますが、何しろ筋は毛糸1本ほどの細さ。一度に使うだけの量を手に入れるのがひと苦労です。鶏スジを売ってくれる店へはたびたび顔を出し、『お宅の肉はさすが』なんて言ったり、コンタクトを切らさないようにしています。半日煮込んでスープをとった後の鶏スジは、刻んで胡桃や生姜、胡麻なんかと一緒に炒め、我が家の常備菜を作ります」

一方で、手間がかかるものだけがいいと伝えたいわけではない、とも続ける。

「食材が良ければ、手間をかけないからこそおいしいということもある。料理が億劫だという方は、料理を作業だと思ってしまうからなのでは。料理は楽しいもので、これを無機的な家事だと思ってしまうのはもったいないですよ」

世の中が落ち着いたら、友人たちと魚の浮袋のスープを食べに行きたいと言う。御歳88歳。好奇心は止まることはない。本書を読めば、作ってみたい、試してみたい新しい“おいしい”に出合えるはずだ。

結婚後、料理に熱中していった著者が、日々新しい食材、味を発見し、料理の楽しさとおいしさと不思議さを饒舌に語る。アノニマ・スタジオ 1,760円

『クロワッサン』1091号より

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