「震災や戦争、スペイン風邪の流行などが15年という短い間にあった時代。その明るい面を描きたかったというのもある。日本人全体が学生だった、そんな時代なのかもしれないな、とも感じます」
実在の人物たちが登場するだけに、当時の資料を読み込んで齟齬のないよう、けれど想像もまた存分に羽ばたかせて、とその絶妙な塩梅がなんとも魅惑的な世界を生み出している。中でも、資料を読んでそのイメージが変わった人物について聞いてみると……。
「渋谷のハチ公にまつわる話で、その飼い主である帝大教授の上野英三郎について調べていたら、週一で駒込に山手線で通っていたんですね。ハチが改札で待ってたのはその時だけ。それ以外は自宅のある渋谷から職場の駒場まで英三郎は歩いて通っていたので。でも、ハチをいつも教室まで連れて行ってたらしいんですよ。当時学生として授業を受けた人の手記に『先生は犬を連れてくるから初めはみんなびっくりする』とあって。ハチが学生たちのアイドルだった、というのには驚きましたね」
と、笑いながらなんとも微笑ましいエピソードを教えてくれた。そんな上野英三郎とハチがいったいどんな事件に巻き込まれてしまったのかは、読んでのお楽しみ。