くらし

コロナ後の日本についてゆっくり話そう。【パトリック・ハーランさん×平野啓一郎さん 対談】

  • 撮影・高橋マナミ スタイリング・水野秀彦(パックン) ヘア&メイク・橋本 杏 文・澁川祐子  撮影協力・日暮里『元映画館』
環境問題やウイルスで一番被害に遭うのは、貧困国の人たち。格差と深く結びついています。(平野さん)

AI時代に必要なのは自分の頭で考え、人に伝える力。

平野 イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは著書『ホモ・デウス』で、分業化体制になった近代以降、国は産業振興のために教育の機会均等を徹底して、一定のリテラシーを備えた人員を供給したほうがいいと気づいて教育がすごく行き届いた、と。でも今後、AIが社会の機能を代替していくと、格差が開いて放置されるのではないかと、この本は警鐘を鳴らしていて。僕もそれを懸念しています。

パックン おっしゃるとおり、階層が凝り固まる瞬間を我々は見ているのかもしれません。なぜならAIやロボットとか、人間よりはるかに能力があるものを持っている人だけが、これから生産力を持つから。ごく一部が永遠に権力と経済を握って、民主主義が崩壊する。この先、世界にAI革命、温暖化といった地球規模の問題に向き合うのに必要なのは、何より教育と哲学じゃないかと思います。

平野 世代間で階級が固定され、お金持ちの子どもだけが、いい教育も受けられるようになってきています。特に東京では、少子化で受験産業の競争が激化する中、親も子どもの将来を心配して、お受験が過熱していて。そんなに機械的に問題集をやらせて、それが生きていく力に結びつくのか疑問です。

パックン 詰め込み式ですよね。教育改革も唱えだして10年以上経ちますが、受験制度も変わらないし、アクティブラーニングも導入されない。結局はデータをインプットして、試験で出力できるかどうか。僕は、計算機とウィキペディアで100点が取れる受験制度はもういらないと思います。あなたは何を考え、それをどう処理し、いかに人に伝えるかという、一人ひとりの独自の発想力、コミュニケーション能力を測るようなシステムに変えないと。

「観光客が来なくなったら終わる、インバウンド頼みの経済の心許なさも露呈しましたね」と平野さん。

パンデミックから希望を見出すために。

パックン 環境問題も少子化対策も結局は国が動かないといけない。だから国を動かす責任者として我々が……、あ、僕はガイジンだから「我々」に含まれてませんよ! 有権者のみんなが、まずその参政権をフルに行使してくれないと。我々が今日、ここで話したようなことを毎日どこかで話していいと思う。周りと議論し、自分の考えを磨いてほしいです。そうしないと自動運転が実現する前に、敷かれたレールの上を我々が走るだけになっちゃう。毎日一人ひとりが自由に考える能力、「AI」じゃなくて「I」、つまりインテリジェンスでもって思考を走らせ、一番いい出口を探ってほしいです。

平野 このパンデミックで大打撃を受けるでしょうけれど、少しでも社会を改善することにつなげていくことぐらいしか、今は希望を持てないですね。

パックン そんな「怪我の功名」にも似た言葉を英語でなんていうかわかります? 「silver lining(シルバーライニング)」というんです。太陽が雲に隠れている時、よく見ると銀色に光る縁がありますよね。この縁がシルバーライニングです。「Every cloud has a silver lining(すべての雲の奥には光がある)」という。

平野 美しい表現ですね。詩人のオスカー・ワイルドがちょっと似ている話をしていて。「楽観主義者はドーナツを見る、悲観主義者は穴を見る」と。

パックン それもおもしろい! 暗い影に覆われている今だからこそ、シルバーライニングに注目していくことが大事でしょうね。

パトリック・ハーラン(パックン)さん●お笑い芸人。1970年、アメリカ生まれ。ハーバード大学卒業。’97年にお笑いコンビ「パックンマックン」結成。司会のほか、大学講師も務める。

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)さん●作家。1975年、愛知県生まれ。京都大学卒業。’99年、在学中に書いた『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。小説以外に批評、エッセイも手がける。

パックン・ジャケット4万4000円(azabu tailor/Y&Mプレスルーム TEL.03-3401-5788)

『クロワッサン』1021号より

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