くらし

コロナ後の日本についてゆっくり話そう。【パトリック・ハーランさん×平野啓一郎さん 対談】

世界的なウイルスの流行で、日本は一体どうなるのか。
社会を鋭く見つめる小説家と芸人が、日本の行く末を語る。
  • 撮影・高橋マナミ スタイリング・水野秀彦(パックン) ヘア&メイク・橋本 杏 文・澁川祐子  撮影協力・日暮里『元映画館』

この先、地球規模の問題と向き合うのに必要なのは、教育と哲学かも。(パックン)

今の日本はみんな過干渉。誰かが権利を得ると相対的に自分が損をすると思っている。(平野さん)

(左)平野啓一郎さん 作家 (右) パトリック・ハーランさん (パックン) お笑い芸人

新型コロナウイルスの脅威が世界へ広がり始めた3月某日。昭和の映画館を改装したカフェで、未来の日本を語り合った。

平野啓一郎さん(以下、平野) コロナの終息は、ワクチンができる1年後といわれています。中国は約6%の経済成長率がある中で都市封鎖をしたけれど、日本の1〜3月は確実にマイナス2桁になると思います。

パトリック・ハーランさん(以下、パックン) 僕の収入もマイナス3桁ですよ! 講演会はほぼキャンセル、おまけに子どもも休校で、どんだけトランプがうまくなるんだって!

平野 リモートワークが進み、Zoom(ビデオ会議)の不便さも実感しました。対面なら複数で話していても、誰かが何か言いたそうにしている気配を察知できる。それでパッと話をふれるけれど、顔だけだと「何々さん、どう思いますか」とハッキリ名指ししないとうまくいかないんです。

パックン 同じ空間にいるかのようなVR会議ができればいいけど。

平野 リモートか対面か、0か1かで考えがちですが、「ここまでは家でやる」「こういう時は会う」という振り分けの整理が必要ですね。

パックン それで月、水、金は出勤、火、木はテレワークみたいな。

平野 アメリカで、ノーメイクでもメイクした顔で映るというアプリがあるらしくて。Zoomでも、背景が別の空間に置き換えられます。

パックン パンツ一丁でも、酔っぱらっていても大丈夫! おまけにバカな発言も全部、AIが賢く聞こえるように直してくれるとすごく助かる。でも冗談抜きで、今後はテクノロジーの進化に拍車がかかるでしょうね。

平野 今回、これまで社会が抱えていた問題が可視化されましたよね。

パックン 政府の対応とか、日本社会の弱点とか。みんなの収入が激減する中、どう生活水準を守るのか。政府の急務ですが、本当はずっと前にできてもよかった福祉制度かもしれない。これを機に、日本の福祉制度の新たな基礎が築かれたら、おかげでいいことも少しはあったと思うかもしれません。

直面する温暖化の危機に何ができるのか。

平野 考えなくてはいけないことは、少なくとも2つあって。1つは日本の少子化、もう1つは世界的な気候変動です。この1、2年でシャレにならないほどの温暖化の影響が出てきているのに、日本がほとんど何も手を打っていないことに危機感を持っています。

パックン 僕もヤバいと思います。温暖化問題には大学時代に目覚めて、演説をしたこともあるんです。そういう危機意識を30年も持つと疲れちゃうけれど、最近は肌で感じるほどの影響が見えている。コロナウイルスのようなパンデミック(世界的大流行)も、この先、温暖化で増えるという予測もあります。

平野 原発の問題も、2011年にあれだけの大事故を経験したのに、結局は火力で補いつつ、今も原発を建設しようとしている。今後、日本は経済的にかなり厳しくなるでしょうが、それでもエネルギー分野などではまだまだやれることがあるのに、やらない。

パックン アイスランドは、エネルギー自給率がほぼ100%で、近い将来、電気を輸出するようになります。そのエネルギー源は、地下熱と水力がほとんどで、あとは風力。山も雨も多い火山大国だからできるんです。日本も火山大国だから地下熱はもちろん、満潮と干潮の差もあるから、波力もある。風も吹くから、風力もある。雨もよく降って標高差もあるから、水力発電だってできる。なのに、なんで火力発電なんだって思います。

平野 原発やリニアといった中央集権的にお金を集める産業は、参入障壁が異様に高いために既得権益が残り続け、技術革新も進まなければコストダウンもできない。そういう産業を温存するのは、もう限界だと思います。

パックン そのためには、まずイノベーションを推進する策が必要です。既得権益を壊す規制緩和も大事ですが、グリーンエネルギーだとプラスアルファの利益が見込めるような制度も作らなきゃいけない。環境問題は、個人や1カ国だけが動いても、周りが取り組んでいないと「意味ないじゃん」と思うタダ乗り問題が非常にやっかいで。前から言っているけれど、TPP(環太平洋パートナーシップ)を結ぶ時に人権と環境意識を一緒に盛り込めば、喜んでみんな改善すると思う。自給率を上げる、労働法を守る、CO2の排出量を減らすとか。「これをやっている国は参加できるよ」という経済クラブを形成する。でもアメリカは、トランプ政権の間は「No」と言うでしょうが。

1 2 3
この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間