くらし

コロナ後の日本についてゆっくり話そう。【パトリック・ハーランさん×平野啓一郎さん 対談】

  • 撮影・高橋マナミ スタイリング・水野秀彦(パックン) ヘア&メイク・橋本 杏 文・澁川祐子  撮影協力・日暮里『元映画館』

経済が減退していく中、増大する社会の不寛容さ。

パンデミックは人類の歴史を変えてきたから、今回も大きく世の中が変わる気がします。(パックン)

経済が減退していく中、増大する社会の不寛容さ。

パックン 少子化対策についてはどう考えます? モチベーションを高めるために、3人以上産むお母さんは減税にするとか、経済的な動機付けを導入するのはどうですか。

平野 子どもを育てるのは負担が大きいから、それはいいと思います。ただ、僕は国のために「産め」というのは反対。子どもができない人もいるし、そもそも個人が決めることだし。だから、なんとなく「子どもを持ってもいいかな」という気持ちになるような環境を作っていかないといけない。少子化対策は、中長期的に個人がある程度自由になるお金と時間を持てない限り解決できないと思います。今みたいに薄給だと、いざデートでおいしい店に行きたくても、お金も暇もない。それでは恋愛も結婚もできないですから。

パックン 同性婚もなかなか認められませんね。若い世代に同性婚許容派が多いから、安倍首相も憲法を変えたいなら、同性婚を認めればいいのに。

平野 彼のコアな支持層では、家父長的な家族制度が重要なトピックで、同性婚を認めたら日本の家庭制度が崩壊するって本気で言っているんですよ。選択的夫婦別姓だって、別姓を名乗りたい人が名乗ればいいと言っているだけなのに。とにかく過干渉です。女性が「パンプスだと足が痛いからスニーカーを履きたい」という「#KuToo」運動だって、何の靴を履こうと人の勝手。なのに一部の男性が「俺だって革靴を履いている」とか「ネクタイ締めている」とか言いだすんです。

パックン その人たちだって革靴やネクタイをやめる選択肢はあるでしょ。

平野 そうですよ、なのに自分の人生にフラストレーションを抱えていて、とにかく何でもいいから攻撃したい。誰かが権利を回復したいと言いだすと、その人たちが得をして、相対的に自分が損すると思っているんです。

パックン 「Win-Lose」で「Win-Win」で考えられないんですね。そうなった原因は何だと思います?

平野 いくつかのレイヤーがあると思います。長いスパンだと、旧陸軍的な、戦中の全体主義が、学校教育で残り続けていたということ。同じ上履きじゃないと認めないとか。そういうタイムスケールで起きていることの一方で、最近では国の財政が逼迫していることも要因でしょう。たとえば予算を生活保護に使うと、「怠け者に金を払うのはもったいない」と、社会的なリソースの使い途にものすごく過敏になっている。みんなが苦労する中で、ちょっとでも他人が裕福になったり自由になったりすることが、相対的に自分を不幸にする気がするんじゃないですか。

パックン 特に中年以上の世代は、激動の数十年を生きてきたせいかも。インターネットが生まれ、SNSが出てきて。外からの刺激が増える中、経済的な不安も重なって、理性や論理ではない、もっと深い本能的なところで、異物を排除する免疫機能が働いているのかもしれませんね。

「2世はもう日本人。次の世代にはもうガイジン扱いはほぼ直っていますよ」とパックン。

ウイルスが可視化するマイノリティ問題。

平野 今回のウイルス問題が、潜在的にあった各国の差別意識をあぶり出していると言われていますよね。

パックン 僕は1993年に来日したんですが、当時はマイノリティがまったく見えない状態でした。アメリカでもLGBTは、僕が高校生の’85年頃にやっと「見える化」したんです。当時はまだ同性同士の性的行為が30数州で違法でした。そんな中、僕が16歳の時、身内がカミングアウトして、LGBTの人がジョークの対象から友情の対象に変わったんです。そして日本に来て、またマイノリティがほぼゼロの状態に戻った。移民もほとんどいなくて、公園に行くと小学生から「ガイジン!」と騒がれました。でもこの約27年間で、だいぶ改善されましたよ。昔はどこの店でも何も聞かずにフォークが出てきたけど、今は「フォークお持ちしましょうか」と、日本語で話しかけてくれる割合が高くなりました。

平野 日本もようやく外国人に慣れてきたのに、そのバックラッシュ(反動)でナショナリズムが強くならないか、気がかりです。しかも2025年ぐらいに日本と中国の平均賃金が逆転すると言われていて、給料も安く、日本語を習得するメリットも薄れて、そもそも日本に外国人が来なくなると思います。

パックン この先、間違いなく優秀な外国人の人材は取り合いになるでしょうね。でも日本には強みもあります。中国みたいにイケイケでなくても、倫理大国、教育大国、福祉大国です。安定した文化的な社会の中で暮らせるという、付加価値の高い選択肢でもある。僕が来日した時もすでにこれからは日本より中国だと言われていて、でも来てみたらもう出られないくらい気に入ったんです。だから僕みたいに日本に惹かれる人もいっぱいいると思いますが、玄関を開けないと来ないですよね。

平野 確かにセキュリティの問題は今、まだ日本の強みだと思います。アメリカとかと違って、銃がないというのは、日本の本当にいいところですよね。

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