くらし

金継ぎで好きな器をずっと使い続ける。【スタイリスト・矢口紀子さん】

暮らしや家族の記憶とともにある、長く親しんだ〈我が家の道具〉。自分で直してとことん付き合う、実践例の紹介です。
  • 撮影・徳永 彩(KiKi inc.) 文・松本あかね

好きでよく使う器ほど欠けるもの。金継ぎをしたら、使用頻度がさらに増えた。

矢口紀子(やぐち・のりこ)さん●スタイリスト。インテリア、雑貨を手掛けるスタイリストとして、雑誌、広告、ショップディスプレイの分野で活躍中。

きっかけは知り合いに誘われた金継ぎ教室。そこでは合成漆を使う簡易な方法だったため、接着部分のシンナー臭が強いのに驚いてしまったという。初めての体験はそんなふうだったけれど、自分で器を修繕するのは「いいものだな」という感触は残った。そこで、今度はにおいがなく、熱にも強い本漆を使った金継ぎに挑戦しようと、東急ハンズでキットを購入したのが始まり。

本漆を使った継ぎは、1回の乾燥に1週間、1つの修繕に2、3カ月かかることもざら。それでも「家でやるからこそ気長にできる」とおおらかに構え、3つ4つたまったら手を付けることをルールに続けてきた。

「欠けたところがそのままだと、使うたびに残念な気持ちに。それが直してみるとやっぱりいい。金が入ることで生き返ったようになるんです」

家でお茶を飲んだり、料理を盛り付けるとき、自然に手が伸びるのは、直した器のほうなのだそう。

「手をかけた分、使いたくなるんでしょうね。愛着が湧くって、こういうことなのかなと思います」

左は「にゅう」と呼ばれる細い亀裂、右は小さな欠けの「ほつれ」。漆と金の力で器が表情も新たに生き返る。

「ほったらかし」が一番!?

パテ状の漆を充填→黒呂色(くろろいろ)漆を塗る→金粉を蒔(ま)く、が、ざっくりした手順。漆の乾燥には1〜2週間ほど。慌てても仕方ないので、時々、霧吹きをして湿度を保ちつつ、基本「ほったらかし」。

家でやるから、気長にできる。

乾いたら、今度ははみだした漆を削る「研ぎ」。その後、漆を塗って削る作業を数回繰り返す。デザイン用カッターは刃が薄く削りやすい。使いやすい道具があると工程を楽しめる。

・矢口さんの道具箱・

最初はキットの購入が近道。自分らしい道具も買い足して。

プラモデル用の面相筆やデザイン用カッターなど、金継ぎ専用でないものも取り入れた。道具は買い足したものの、キットの材料を10年近く使い続けているというから、かなりお得と言えそう。

『クロワッサン』1018号より

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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