三千代を演じる藤谷美和子の美しいこと! 大正ロマンを先取りしたような着物(派手な半襟づかいが素敵)がとにかく見ものです。そんな美しい一人の女をめぐって、対立することになる男たち。代助の立場から見ると、友情をとるか愛情をとるかという一見安直な選択に思えるけれど、三千代の立場からだと、少し違うものになります。
明治的な「男らしさ」を拒否している代助とは、精神的に通じるものがあるものの、生活能力は期待できない。逆に平岡は社会人として外で働きお金を稼ぐ、普通の「男らしさ」は期待できた代わりに、俗人であり妻の扱いも酷い。そして平岡を見ていると、どうも三千代という“コマ”をつかって、代助と力比べしているように思えてならない……。
三角関係の中にさまざまに働く力学を、森田芳光監督はぐっとこらえて演出し、明治の抑圧的な空気をじりじり漂わせます。この時代、世の中に逆らって高等遊民を気取ったり、姦通罪に触れるようなことをしでかすのに、どれだけの反骨精神が要ったか。
公開された1985年(昭和60年)より、同調圧力の強い現代にこそ、代助のアンチヒーローぶりは刺さる気がします。