映画の心臓になっているのはもちろん、強烈な輝きを放っていた、デビュー直後の牧瀬里穂。タイトルロールに相応しいフレッシュな存在感で、わがままでエゴの塊でありながら、そこになにか真実を隠し持っていそうな魅力を存分にふりまいています。そして主役を巧みに引き立てているのが、中嶋朋子によるナレーション。現在もラジオドラマ等、声で物語るエキスパートとして活躍していますが、当時19歳の彼女が語り手まりあを演じたことで、ちょっと少女漫画の匂いのする物語にリアリティがもたらされ、絶妙なバランスが保たれているのです。
脚色も手掛けた市川準監督が、原作のエピソードを緻密に再構成。吉本ばななの文体を映画の中に溶け込ませるという神業をやってのけています。西伊豆の柔らかな光を捉えた映像は胸がせつなくなるほど美しく、音楽使いも絶妙で、家族経営の旅館が舞台といういなたさが、かえっておしゃれに見えてくるセンスの良さったらない。全部をひっくるめて、なんて言うか、“雰囲気”があるのです。
市川準が映画にもたらした“雰囲気”。それを追従した人たちによって、平成映画には雰囲気が氾濫したのではと思えてきました……。