「クレバの曲って、良いのね」
母からこんな言葉をかけられてドキッとしてしまった。クレバって、もしかして、あの?
「ラップのKREVAよ。歌詞が良かったわ。存在感はある 存在感はある♩ってヤツ」
昭和15年生まれの母の口からラップを聴く日が来るとは。母の情報源はラジオと新聞。そこだけ切り取れば昭和の人間って感じなのだけど。キャッチする情報に妙がある。
「“かかと”っていうのも面白かったわ。おとぼけビ〜バ〜っていう子たちも元気で良かったわよ」
KAKATOは鎮座DOPENESSと環ROYによるラップグループ。おとぼけビ〜バ〜は京都のガールズバンドでその活躍は世界でも認められたものらしい。
まるでサブカル好きな20代女子のようだが、決して若ぶっているつもりもなく、むしろ“サブカル”なんて言葉を鼻で笑う母だ。しかし、気になるものはラジオを聴きながらチラシの裏に鉛筆でメモをして、わたしに尋ねる。
「川村元気ってどんな人?」
「トミヤマユキコって大学の先生なのね」
先日も「前野健太って良いわね」と始まった。
またラジオでしょ、と言うと「違うわよ。新聞に載ってるエッセイが良いのよ」とのこと。
あの人、ラジオやってるよ。と教えると、
「あ、そう。聴いてみようかしら」
と声を弾ませていた。わたしがお手本にしたい昭和15年生まれである。