からだ

最近よく聞く虚血性心不全の前に、大人の女性が気をつけたい心疾患があると聞きましたが…。

  • 撮影・青木和義 文・及川夕子 イラストレーション・川野郁代

虚血性心疾患は男女差の大きい疾患。

閉経の有無と更年期女性の心血管疾患発症頻度。更年期のどの年齢層でも、閉経後女性のほうが有経女性に比べて心血管疾患の発症が多い。出典:循環器領域における性差医療に関するガイドライン

竹内 心不全=突然死というイメージを持っていましたが、必ずしも急性のものとは限らないのですね。

天野 心不全の定義は、「心臓が悪いため、息切れやむくみが起こり、さらに悪くなり、生命を縮める病気」。心筋梗塞、高血圧、不整脈、狭心症などの疾患の先にあるものと考えるとわかりやすいかもしれません。ところで、女性のほうが、男性よりも心不全で亡くなることが多いんです。なぜだと思いますか?

竹内 長生きだからでしょうか?

天野 そうですね。全体的に見れば、心筋梗塞による死亡数はほとんど男女差がありません。でも、男性は若いうちから心筋梗塞で命を落とすことがあるのに対して、女性は閉経前に心筋梗塞にかかることは非常にまれ。閉経後10年ぐらい経つとかかる確率が高くなってきて、75歳を超えると急に増えていきます。
そのため、女性の心不全は高齢者に多く発症し、発症後5年で半数以上が亡くなるというデータもあります。女性の心筋梗塞は手術後の回復が悪いということで、最近になってようやく目が向けられてきたんですね。以前は、とにかく突然死を減らそうと、いわゆる男性の心筋梗塞の予防や対策にスポットがあてられていましたからね。

竹内 発症時期に性差があるとは、初めて知りました。これまでは、油っこいものを食べる人、不摂生している人が動脈硬化になり、心臓病になりやすいと思っていましたね。

天野 その考えは間違っていませんよ。ただ、心臓の病気ほど、性差がある病気はないと思います。女性はこの事実を知るべきです。そして正しく対処すること。それが、大事な心臓を守るいちばんの秘訣ですね。

女性ホルモンは心血管系にとって よいことずくめなんです。(天野さん)

更年期に感じやすい症状と関連する病気。更年期は心臓病のリスクが高くなっていく年代なので、病気がないかどうかのチェックは必要。作成:天野惠子

竹内 発症年齢が異なるという性差は、なぜ現れるのですか? 理由をぜひ知りたいです。

天野 さきほど、動脈硬化が心筋梗塞や狭心症を招くと言いましたね。動脈硬化とは、血管内皮細胞に傷ができ、そこにコレステロールが蓄積して血管が狭くなったり、血栓ができるというもの。女性は、女性ホルモンが血管を守ってくれているため、ダメージを受けにくい。例えていうと、若い年代の女性はケーキバイキングでたくさん食べても中性脂肪は増えないし、悪玉コレステロールの数値も上がりません。つまり、動脈硬化が起きてくる年齢が、男性よりもずっと後なんです。

竹内 女性ホルモンは、血管にもよい働きをしてくれているんですね。日本女性の平均閉経年齢は50歳ぐらいでしたよね。そのあたりがターニングポイントになるのでしょうか。

天野 そのとおりです。女性ホルモンのエストロゲンは、悪玉コレステロール値を下げて血管をしなやかに保つ作用や、血管を拡張させる物質の産生を促進するなどの作用があって、心血管系にとってはいいことずくめなんですね。その昔、男性の狭心症患者に対してエストロゲンを投与していた時代もあるくらいです。

竹内 でも、中には、40〜50代で心筋梗塞を発症する女性もいますよね。その場合、何が原因なのですか?

天野 一つは、若年性糖尿病、若年性高血圧などのリスクがあることですね。通常、50歳くらいの女性の血管はキレイなはずなのです。でも、頸動脈エコーで調べると、閉経前の女性にも、まれにプラーク(動脈壁の肥厚)ができていたり、動脈硬化の兆候が見られることがあるんです。それは持って生まれたもの。一つの目安として、その人の父親が45歳前に、または母親が55歳前に心筋梗塞を発症していたら、遺伝が影響する可能性があり、若くても心疾患の発症リスクは高いということになります。

竹内 両親の病歴を知っていれば、早めに対処できそうですね。

天野 そうですね。さらに、性差に目を向けると、女性はタバコと糖尿病が、急性心筋梗塞に対する2大リスクです。喫煙者の急性心筋梗塞の発症リスクは、タバコを吸わない人に対して男性が4倍なのに対し、女性では8・2倍。同様に糖尿病の有病者では、男性で2・9倍なのに対し、女性では発症リスクが6・1倍に跳ね上がります。高血圧は男女ともに約5倍。一方、高コレステロール血症(脂質異常症)については女性の場合0倍と、あまり影響はないのです。

竹内 コレステロールを気にしている人は多いと思いますが、それよりもタバコがダントツに悪いのですね。

天野 タバコというと、子どもへの受動喫煙が問題になるけれど、実はお母さん自身の血管や心臓もかなり危ないと、私たち医師は、声を大にして伝えないといけないと思います。

急性心筋梗塞の危険因子(男女別)。女性では喫煙と糖尿病が2大リスク。オッズ比(非喫煙者、非糖尿病者に対する比率)がそれぞれ約8倍、約6倍と非常に高い。出典:Japanese Acute Coronary Syndrome Study(JACSS)

男と女では発症年齢が違う。 女性は閉経後からが要注意ですね。(竹内さん)

竹内 遺伝要因がなければ、一般的には、女性は閉経後から動脈硬化が始まるのでしたね。

天野 そのとおりで、女性は閉経を境に生活習慣を改めることが、心臓病の予防にとても大事です

竹内 とにかく血管にダメージを与えるようなことはしないこと。タバコと糖尿病、それに高血圧、脂質異常症、家族歴(遺伝)などがリスク因子になると。これは男女ともに知っておきたいことですね。

天野 さらにもう一つ、心筋梗塞といえば、胸が締め付けられるように痛むものというイメージがありますが、女性の場合は、腹痛、あごや肩の痛み、胃もたれなど、胸以外の部分の痛みを訴える方も少なくありません。そのため、心筋梗塞を起こしていることに気づかず、循環器科を受診するまでに時間がかかってしまい、治療が遅れる例もあるということも知っておいてほしいですね。

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