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料理家、樋口直哉さんと減塩実験。最低限の塩分で料理をおいしくするには?

  • 撮影・青木和義 文・斎藤理子

[鶏もも肉の山椒焼き]

× 同じ塩の量でも、下味だと感じにくい。
 ↓
◯ 塩は焼き上がってから、 表面にふる。

塩は、焼く前に下味としてふるレシピが多いが、肉の中に浸透してしまうので、塩味は感じにくくなる。焼いた後にふれば、表面の塩が舌に触れる率が高くなり少量の塩でも満足感が高い。

山椒は舌に電気的刺激を与え、塩味を感じやすくなるので、やはり減塩効果が大きい。「焼き色をしっかりつけるのも大事。焦げ目やパリパリ感があると、塩味をより強く感じられます」

【材料(2人分)】
鶏もも肉1枚
塩小さじ1/8
粉山椒適量
ししとう4本

【作り方】
1.鶏もも肉を、フッ素樹脂加工のフライパンに皮目を下にして入れ、中火にかける。
2.フライパンに押し付けながら4〜5分焼いて、焦げ目がついたら裏返し、弱火にして3分焼く。火を止めて2分休ませる。
3.ししとうに包丁の先で適宜穴を開ける。
4.魚焼きグリル(両面焼き)で鶏もも肉とししとうを4分焼く。
5.取り出して、塩と山椒をふり、一口大に切り分ける。

(Point)
鶏肉はフライパンに押し付けることで、皮目がのび、均一に焼き色がつく。

(Point)
塩と粉山椒は焼いた後にふる。舌に直接触れるので味を感じやすくなる。

[小松菜とおかかの山椒炒め]

× スパイスなしだと、塩が多く必要。
 ↓
◯ 粒山椒と鰹節の風味で、塩さえ不要。

「副菜はそれ単独でご飯を食べるわけではないので、塩味がなくても大丈夫」と樋口さん。

油に花山椒を入れて炒め、じっくりと香りを移した後に小松菜を炒め、削り節のうま味を加えれば、塩をまったく使わなくてもおいしい炒め物になる。
「献立全体で、塩分のメリハリをつけることが大事です」。

爽やかな刺激で減塩効果が高い花山椒オイルは、炒め物以外にも、豆腐やゆで野菜にかけたりと応用がきく。

【材料(2人分)】
小松菜 1/2束
サラダ油 大さじ1/2
花山椒 小さじ1/2(粗く砕く)
酒 小さじ1
鰹節 1パック

【作り方】
1.小松菜は5cm幅に切る。
2.フライパンにサラダ油と花山椒を入れ、中火にかける。ふつふつしてきたら小松菜の茎の部分を入れて30秒ほど炒める。
3.葉の部分を加え、酒を入れてさらに30秒ほど炒める。
4.アルコールが飛んだら火を止めて、鰹節と和える。

材料はこれだけ。鰹節からも、うま味とほのかな塩気が出るので充分。

(Point)
味わいが濃い小松菜の根は切り落とさずに、細かく刻んで一緒に炒める。

[つるむらさきのおひたし]

× 茹でただけの野菜に、食卓で醤油をかける。
 ↓
◯ 海苔のうま味をプラスして、出汁の塩味で食べる。

醤油を直接かけるおひたしは、塩分過多になりがち。
濃いめにとった昆布と鰹節の合わせ出汁に塩をきかせて、その味で野菜を食べれば減塩に。
冷たいほうが塩味を強く感じるので、よく冷やして食べるのがポイント。
海苔の香りとうま味を加えれば、満足度がアップ。
「青菜を茹でるときに塩を入れる、というのは昔の習慣。特に意味はないので、入れる必要はありません」

【材料(2人分)】
つるむらさき 1/2束
出汁 300ml
塩 小さじ1/4
海苔 適量

【作り方】
1.出汁に塩を溶かす。
2.つるむらさきを5cm幅に切り、たっぷりの湯で硬い部分を1分30秒、葉を1分茹で、冷水にとって出汁に浸す。
3.海苔をちぎって2に加える。

*好みでスプレーボトルに入れた醤油を少々かけても可。

つるむらさきは、硬い部分を先に1分30秒茹でてから葉を1分茹でる。

(Point)
つるむらさきを出汁に浸して冷やし、仕上げに海苔をちぎって入れる。

[とうもろこしの炊き込みご飯]

× 一般的なレシピは、塩小さじ1と水で炊く。
 ↓
◯ 出汁で炊けば、塩は小さじ1/8で充分。

2合から3合の炊き込みご飯を炊く場合、水ではなく昆布出汁を使えば小さじ⅛の塩味で充分おいしくできる。

「塩味ではなく、出汁のうま味で食べる炊き込みご飯です。おかずと一緒に食べるのなら、このくらいの薄味のほうがいい。塩分が少ないほうが、とうもろこしの甘さやうま味も際立ちます」。

よい出汁が出る芯も一緒に炊き込むことで、より深い味わいの炊き込みご飯に。

【材料(4人分)】
米2合
とうもろこし1本
塩小さじ1/8
昆布出汁400ml

【作り方】
1.米は洗って浸水させておく。とうもろこしは芯から実を外す。
2.土鍋に昆布出汁、塩、米、とうもろこしの実と芯を入れ、蓋をして中火にかける。蒸気が上がってきたら弱火に落とし、10分加熱する。火を止めて、5分蒸らす。

(Point)
右は小さじ1、左は小さじ1/8の塩。見た目にもこれだけの差があることに驚く。

とうもろこしは、縦に包丁を入れ、実を外す。芯は焼いてから炊くと香ばしい。

[ねぎとなめこの味噌汁]

× 味噌汁の具に、豆腐を入れる。
 ↓
◯ ねぎとなめこだけなら、大さじ半分の味噌で充分。

使用する味噌は通常の半量。それでも、ねぎの香りとなめこのうま味やとろみの効果で、しっかりとした味わいの味噌汁になる。

「なめこのとろみが、塩分が舌に滞在する時間を長くするので、塩味を感じやすくなります。実はタンパク質には、塩分を少なく感じるという作用があります。なめこ汁に豆腐はつきものですが、減塩にしたいなら避けたほうがいいですね。ねぎもなめこも煮すぎないように」

【材料(2人分)】
昆布とカツオの合わせ出汁 400ml
米味噌 大さじ1
長ねぎ 1/6本
なめこ 1/2袋

【作り方】
1.出汁を沸かして火を止め、味噌を溶かす。
2.みじん切りにした長ねぎ、なめこの順に入れ、それぞれ30秒ほど火を通す。

ねぎは細かく切ったほうが風味がよく出るので、みじん切りにして加える。

樋口直哉

樋口直哉 さん (ひぐち・なおや)

作家、料理人

フレンチの料理人を経て作家に転身。『さよならアメリカ』(講談社)で第48回群像新人文学賞を受賞。同著は芥川賞候補にも。著書多数。

『クロワッサン』1076号より

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