からだ

広い歩幅での歩行は、カラダだけでなく、脳機能の低下も防ぎます。

大きな歩幅の確保は腰痛予防につながる、という、整形外科医の平尾雄二郎さんに話を聞きました。
  • 撮影/角戸菜摘 文/石飛カノ イラストレーション/安ケ平正哉

歩幅が広い人、歩くスピードが速い人はサルコペニアやロコモティブシンドロームのリスクが低く、フレイルを経由したその先の介護状態に陥りにくい。

歩幅を広くとり、颯爽と歩くためには筋肉のパワーや機能性が高く、筋肉のバランスが良好であることが条件。なので、それはすんなり納得できる話。

でも、そればかりではありません。歩幅を広くとって歩くことは脳の健康にもひと役買っているのではないか。最近ではそんな研究が報告されています。

すでに、65歳以上の高齢者で、歩幅が広く速足で歩いている人は認知症の可能性が低く、歩幅が狭いトボトボ歩きの人では認知症の可能性が疑われるという、はっきりとした指標があります。

トボトボ歩きの目安は秒速にして0.8m以下。青信号の間に横断歩道を渡りきれないレベルのかなり遅いスピードです。このレベルの歩行スピードになると、肉体的にはサルコペニアと判断されるのはもちろん、将来はカラダだけでなく、脳の機能が衰えるリスクが指摘されているのです。

ちなみに、横断歩道は秒速1mで渡れるように設定されていることが多いので、以前は青信号で渡りきれていたのが、渡りきれなくなってきたというときは要注意です。

歩行と認知機能に関する研究は世界中のさまざまな研究機関で行われていて、驚くような結果も発表されています。

たとえば、アメリカのマサチューセッツ州での2400人の男女を対象にした研究では、歩行のスピードが遅い人は速い人に比べて認知症になるリスクが約1.5倍高くなるという報告がされています。

また、同じくアメリカのピッツバーグ大学が行った研究では、1日40分、週3回ウォーキングをした人は、ストレッチだけをした人より記憶をつかさどる脳の海馬という部位の容量が明らかに大きくなることがわかりました。

●歩幅の広さと認知症リスクの関係

東京都健康長寿医療センター/谷口優

歩幅の狭い女性は認知症リスクが6倍近く?

国内での研究で注目されたのは、東京都健康長寿医療センターが行った次のような研究です。

群馬県で2002〜2014年に特定健診を受診した1686人を対象にした調査で、歩くスピードが速いグループと遅いグループを比べたところ、後者は前者より認知機能の低下が起こるリスクが高かったというもの。

調査期間中に認知症を発症した人を「歩く速度が速いグループ」「歩く速度が中程度のグループ」「歩く速度がどんどん遅くなるグループ」に分けて比較すると、「速いグループ」を1とした場合、「中程度のグループ」は1.53倍、「どんどん遅くなるグループ」は2.05倍認知症の発症リスクが高くなるという結果になったそう。

また、同じ東京都健康長寿医療センターの研究で、歩幅を「広い」「普通」「狭い」の3つのグループに分けて分析したものがあります。

その結果は、「広い」グループの認知機能低下のリスクを1とした場合、「狭い」グループは男女ともにリスクが高まったそう。とくに女性は「広い」グループに比べて「普通」のグループは2.44倍、「狭い」グループは5.76倍も認知機能低下リスクが高かったということです。

歩幅と認知機能の因果関係で考えられるのは、脳からカラダへの指令が正常に伝わることで、人は次の一歩を踏み出されるのではないかということ。また、大股でリズミカルに歩くことで脳に栄養と酸素が行き届き、脳の神経を維持したり、成長させたりする可能性があることもわかっています。

急速に超高齢化が進む日本では、2025年には高齢者の5人に1人が認知症患者になるという推計が出ています。

広い歩幅を維持して歩くことは、筋肉の維持や腰痛予防だけでなく、脳の機能の低下も防ぐ。これは、心身ともにアンチエイジングに有効という希望のあるトピックです。

●記憶をつかさどる海馬は歩行で大きくなる

Erickson et al.2011

平尾雄二郎

監修

平尾雄二郎 さん (ひらお・ゆうじろう)

脊椎外科医

都立広尾病院整形外科医長。脊椎外科の専門医として日々、手術による腰痛患者の治療のほか、セミナーなどで腰痛改善法の普及に努める。

『Dr.クロワッサン 歩幅65.1cmで、腰痛しらず。』(2019年3月5日発行)より。

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