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『欠歯生活 歯医者嫌いのインプラント放浪記』北尾トロさん|本を読んで、会いたくなって。

歯が丈夫な人がつくづく羨ましいです。

きたお・とろ●1958年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。2012年より長野県松本市在住。最新刊に『猟師になりたい!2 山の近くで愉快にくらす』(角川文庫)。FMまつもと『北尾トロのヨムラジ』のパーソナリティも務めている。

撮影・千田彩子

数多くの裁判を傍聴して、自分なりの判決を下したり、「浮気専門の私立探偵」「超能力開発セミナーの講師」など、一般的には知られていない仕事をする人の日常に密着したり……。

北尾トロさんは精力的でユニークな取材を通して、時代の裏側を鋭く切り取るのが得意なノンフィクション作家である。そんな北尾さん自身の弱みは「歯に自信がないこと」だった。

「タイトルの “欠歯” はけっぱと読みます。歯がない状態のことを我が家ではそう呼ぶようになったのです。白い歯が並んでいるのが当たり前なのに、ごそっと歯が抜け落ちて口の中に暗黒が広がっている。歯医者嫌いの反面教師にしてもらいたくて書きました」

子どものころから虫歯で悩んできた北尾さん。だがなかなか治療に行かず、限界まで我慢した。「なぜもっと早く来ないんだ」と歯医者に怒られ、治療中も暴れて大騒ぎだったという。

「つねにどこかの歯が痛かったり違和感があったりしていたんです。モロッコを旅しているときに突然奥歯が欠けて、舌に当たって痛みが増してきたので、そこらで拾った石を口の中に入れて尖った箇所を削ったこともあります(笑)。40代で娘を授かったのですが、妻からは虫歯がうつるといけないからと、娘へのキスは禁止、と言い渡されました」

そしていまから25年前、虫歯の奥歯を抜いたとき、入れ歯にするかインプラントかの二者択一を迫られた。まだ30代前半だった北尾さんは、入れ歯と聞いただけでショックを受け、悩んだ末、当時はまだ珍しかったインプラントを選択。歯科医からインプラントは一生モノと聞き、100万円近くかけた。

保証期間は10年。確かに10年は持ったのだが、10年と数カ月後に突然一生モノが折れてしまった。そして長い長い治療が始まるのだが、読み進むうちに、なんとなくこちらまで自分の口の中が気になってくる。あちこちの歯にガタがきている中年であればなおさらだろう。

「自分の身体なのに、いままでずいぶんつらくあたってきたなと反省しているんですよ。取れてしまった歯を含めて、結局7本をインプラントにしました。妻からは、もう入れ歯でいいじゃない、まだモテたいの?なんて言われましたけどね(笑)。お金も相当にかかりましたが、自分の歯のように噛めて、人前で笑えて、喋れるのはつくづく幸せなことだと思います」

文藝春秋 1,700円

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