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『フェイクニュースの見分け方』烏賀陽 弘道さん|本を読んで、会いたくなって。

根拠を提示しない意見は捨てて構いません。

うがや・ひろみち●1963年生まれ。’86年朝日新聞記者となり’03年独立。著書に『報道の脳死』(新潮新書)、『福島第一原発 メルトダウンまでの50年』(明石書店)、『「Jポップ」は死んだ』(扶桑社新書)など。フォトグラファーでもある。

撮影・新井孝明

2003年に朝日新聞を退社して以降フリージャーナリストとして活動し、メディアの問題点を鋭く指摘する烏賀陽弘道さん。本を読んでカミソリのような人物を想像したが、いざ会ってみると思ったより人懐こく温かみがある。

「3・11とその後の対処についても、昨今の森友・加計の疑惑にしても、フェイク(虚偽)とファクト(事実)が混在して何を信じていいか非常にわかりにくい。新聞・テレビなど旧来のメディアは衰退の一途をたどり、インターネットの普及は信頼できる事実を見つけることをむしろ難しくしています」

歯に衣を着せない率直な話し方で、いま何が問題なのか洗い出す。人に話を聞くジャーナリストには、 “感じのよさ” が必要な条件なのかもしれないと思った。

「氾濫している情報の海から真実に近づくコツは、無根拠なオピニオン(意見)とファクト(事実)を分けて、オピニオンを捨てファクトを採ることです。

政治家や官僚は公の場では “本当のこと” を言いません。発言は情報として価値が低い。では何を見るか。具体的な法案や法律の条文です。法律は “権力の言語” 。昔の記者はこれを読み解いて報じていました」

それには公開情報のチェックを怠らず、足を使って人を訪ね、疑問をぶつける必要がある。

「自分の取材経験を話すと福島の原発事故のあと、従来の避難体制ではダメだということで新しい体制が作られ、条文化されました。原子力規制委員会が公開している、非常にわかりにくい議論の本質はその条文に結実しています。原発の半径30km以内の住民は、地上に置かれたモニタリングポストの線量が一定量を超えたら屋内に避難せよと書いてある。変だと思って原子力規制庁を訪ねて、 “これだと住民が被曝しますよね?” と聞いたら “そのとおりです。住民の被曝は容認する避難体制に変えました” と答えた。これは疑問を抱いて質問しないと得られない情報です」

一般の人がそこまで公開情報に目を配って “本当のこと” を知るのは実際問題、無理なのでは?

「本来は記者が行う仕事です。ところが森友や加計の報道を見ても、記者がそれをやっていない。官僚の秘密主義も問題ですが、それを突破する責任は記者にある。当事者の籠池氏に直接、話を聞いたのはフリーの著述家だけ。その人を記者が囲んで取材していた。なぜ直接聞かないのか。メディアを選ぶより、信頼できる報告者を見つけることが大切です」

新潮新書 800円

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