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『日常学事始』荻原魚雷さん|本を読んで、会いたくなって。

五徳の焦げはプラスチックフォークで。

撮影・岩本慶三

おぎはら・ぎょらい●1969年、三重県生まれ。「一人暮らしの若者には洗濯ネットを常に勧めます。あと、部屋の換気も大切。ナイチンゲールもくどいほど換気の重要さを語っていたそうですよ」。著書に『閑な読書人』『書生の処世』『活字と自活』など。

撮影・岩本慶三

そっと小声で、遠慮がちに、「くれぐれも家事は無理しないほうがいいですよ」「こんなやり方、発見しましたよ」とアドバイスをくれるような、不思議な本だ。荻原魚雷さんは、読書、古本についての著書が多い文筆家だが、この本は衣食住のちょっとしたコツがテーマとなっている。執筆のきっかけは、(ライターの)岡崎武志さんの著書の巻末対談だった。

「食材を冷凍することとか洗濯ネットの使い方とか、貧乏話の延長で暮らしの話をしていたら、ウェブで連載しないかと。自分としては意外でした。特別なことをしているつもりはなかったので……」

今も戸惑ってるんですという表情の荻原さんだが、本書で開陳されている家事の工夫はこんなふう。

・洗濯物は100均の安い洗濯ネットに入れて洗うと、もちが違う。

・掃除はわざわざではなく、ついで、ながらでやるがよし。

・焦げ落としには(今のところ)プラスチックフォークがいい。

などなど。本誌でおなじみの家事のエキスパートたちがたどり着いた境地に迫っているような。

大学卒業後、就職せずにフリーライターになった荻原さんは、一人暮らしをするうちに「お金がないから、あるものでなんとかしないといけない」必要にかられて家事をこなすようになった。結婚した今も、妻が会社員なので平日の家事はほとんど荻原さんの担当。妻から不満の声はないかと聞くと、

「……言われたらやっぱり、かちんと(笑)。でも本にも書きましたが、自分がメインで家事をやっていると、手伝ってもらうこと、家事分担の難しさは感じます。物の置き場所、片づけ方も自分で決めてるから、それを同じようにやってもらうのは難しい。分担する量も、本当に平等がいいのか?という疑問は常に頭にあって。遅い時間に疲れて帰ってきた妻が家事をしなければならないかというと、それも違う。

だから、たとえ家事が完璧であっても、誰かが不機嫌になるくらいだったら、多少だらしなくても、家族が楽しく暮らせたほうがいいと思っています」

この本は、とくに家事道の途上であることを意識して書いた。

「家事は、みんないろいろ試しながらやるから、絶対この方法と決めつけないで、今はこんなかんじですという……なるべく断定しないように書きました。古本の話と違って、どこか自信のないまま書いていて……」

やっぱりひかえめな荻原さんなのだった。

本の雑誌社 1,300円

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