生活の中になかった「赤」が集まった、プレゼントの物語。 | 読む・聴く・観る・買う | クロワッサン オンライン
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生活の中になかった「赤」が集まった、
プレゼントの物語。

意外性のある贈り物はうれしさもひとしお。もの選びの達人に、今も心に残り、大切にしているプレゼントの物語を教えていただきました。

奈良でカフェと生活雑貨の店『くるみの木』、ギャラリーやレストラン、ホテルもある『秋篠の森』を営む石村由起子さん。使い勝手のいい器や知られざる各地の食材などを探して全国を飛び回っているが、その石村さんが心に残っているプレゼントは足にまつわるもの。実は石村さん、ここ数年、足の具合が悪く、思うように行動ができずに歯がゆい思いをしていた。

「全国の職人さんを訪ね、制作過程を拝見したり、食の生産者といっしょに作業をしたり、と長時間立ちっぱなしも珍しくありません。〝歩いて探す〟が私のモットーですから、つらかった」

 日々の仕事に追われ、足の不具合を抱えたまま、とうとう還暦を迎えたところ……。

「人生の節目だから、と親しい友人たちが、京都の知人宅で還暦祝いの席を設けてくれました」

 友人たちからは、還暦にちなみ〝赤〟を取り入れたプレゼントが多かった。

「なんと〝赤のカシミヤのストール〟を友人2人からそれぞれ1枚ずついただきました。デザインが違うのでどちらも愛用しています」

「贈ってくれた人の思いが 伝わってくるプレゼントは、心に寄り添ってくれます」と石村さん。

「贈ってくれた人の思いが
伝わってくるプレゼントは、心に寄り添ってくれます」と石村さん。


なかでも石村さんを驚かせたのが、30代の男子(編集者)からのプレゼント。

「手渡されたのは赤いスニーカー。えんじ色のバックスキンで、靴紐はグレー。今見るとシックなのですが、そのときは〝えっ!? 〟。確かに還暦のプレゼントなので、赤なのでしょうが、私の生活の中にはない色。服はグレー、黒、白といったモノトーンや紺がベースなので、ストールなど小物ならコーディネートができるけれど、スニーカーはどうしたらいいんだろう? これが正直な気持ちでした」

贈り主の男子からは、
「『このスニーカーを履いて、元気に飛び回る姿を僕は見たいです』と。気恥ずかしいやら……。足の調子が良くないのを知って、負担をかけず、楽に歩けるものを探してくれたんだと思うと、その気持ちがうれしくて。忘れられないプレゼントです。私の気に入りそうな赤が見つからなくて、すいぶんと探しまわってくれたらしいです」

ニューバランスのスニーカー。「赤い靴は生涯初めて。贈り主の気持ちが伝わり忘れられない一足」

ニューバランスのスニーカー。「赤い靴は生涯初めて。贈り主の気持ちが伝わり忘れられない一足」

その後、スニーカーは?

「今日は歩くぞ、という日はこれを履いて、元気に歩き回っています。また、疲れたときや、仕事で落ち込んだときに眺めては、赤からパワーをもらっています」

その後も赤とは無縁だと思っていた石村さんだったが、今度はスタッフから〝赤い靴下〟がプレゼントされた。


朱赤に近い色合いのニットの靴下。「凹凸のある足首の編み地がかわいいでしょう」

朱赤に近い色合いのニットの靴下。「凹凸のある足首の編み地がかわいいでしょう」

「たまたま、ある展示会でこの靴下を見かけたときに、『足首のところがポコポコしていてかわいいわね』と言ったのをスタッフが覚えていてくれて、みんなでプレゼントしてくれたんです。ほんのひとこと漏らしただけなのに、心に留めてくれて……。足が冷えないように、悪くならないように、という思いが込められているようでうれしかった。室内履きとして愛用しています」

足の不調を抱えたまま仕事を続けていた石村さんだが、一昨年の冬から今年の春にかけて足の手術を受けた。


「花たちが、つらいリハビリで萎えた心に潤いをくれました」。漫画はほしよりこさんの『きょうの猫村さん』(小社刊)の1・2巻。

「花たちが、つらいリハビリで萎えた心に潤いをくれました」。漫画はほしよりこさんの『きょうの猫村さん』(小社刊)の1・2巻。

「これから先のことも考えると、今しかない、と思ったんです。前々から札幌の先生を紹介されていたので、友人たちには知らせずに入院しました」

 幸い手術は成功したが、その後のリハビリがつらく、気力も萎えていたときに届いたものがある。

「神戸に住む友人が、フラワーアレンジメントと漫画本2冊を送ってくれたんです。たぶん、連絡がないのを心配して、スタッフに聞いたのだと思います。私は今まで入院のお見舞いに、花束は病室の様子もわからないから邪魔になると思い、贈ったことがないのですが、自分が入院してみて、花が心を癒やしてくれることを実感しました」

白いトルコキキョウと薄紫のバラ、ところどころに赤い実がのぞくフラワーアレンジメントだった。

「疲れて病室のベッドに横になると、窓辺に置いた花が目に入るんです。きれい、と素直に感じられ、〝よおし、元気になるぞ〟と思ったものです。漫画本は読む気力がなく、表紙だけ眺めて過ごしましたが、選んでくれた友人の心がうれしかったです」

 足も完治し、以前にも増してパワフルに活動する石村さん。きっと、例の赤いスニーカーのコーディネートも上達しているにちがいない。


 

◎石村由起子さん 『くるみの木』『秋篠の森』主宰。/近年は空間コーディネーターとして地方の街おこ
しプロジェクトにも関わる。11月に奈良町に、12月には東京・白金台に奈良の魅力を伝えるショップがオープン。

『クロワッサン』913号より

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