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新旧のコントラストが心地よい、
話題の街・清澄白河へ。

文/写真・藤島由希(クロワッサン倶楽部読者モデル)

下町情緒にニューフェイスが溶け込む、清澄白河の独特の風景。

下町情緒にニューフェイスが溶け込む、清澄白河の独特の風景。

生まれも育ちも東京だったはずが、都外に家を購入したのを機に、東京が“故郷”に……。そんな私がお届けする連載コラム「東京ぶらり里帰り」の第2回目で訪れたのは、江東区の清澄白河。日本におけるサードウェーブコーヒーのコアスポットとして話題の街です。

サードウェーブコーヒーを牽引するアメリカの『Blue Bottle Coffee』が、日本初上陸の地に清澄白河を選んだというニュースを目にしたときは、「はて?」と首をかしげたものです。というのも私は“西東京”育ちの女。江東区などを含めたいわゆる“東東京”の事情に疎いのです。

都外出身の方からすれば「同じ東京なんだから詳しいんでしょ?」と思われるかもしれませんが、意外に厚い西と東の壁……。私の育った西東京は、見渡す限り家、家、家の静かな住宅街。一方の東東京は、“下町”とも称されるように江戸の気配を残した活気あるエリア。西育ちの子どもたちは、大人になるまで浅草に行ったことがなかった、という例も少なくないんですよ。

ただでさえ疎い東のエリアが「いま熱い!」と話題になっている……。新しもの好きの私としては見過ごせない事態です。いざ東京へ、ぶらり里帰りで清澄白河へ!

 

江戸から昭和へと歴史散歩。

事前の下調べによると、清澄白河は四方を川で囲まれた、わりとコンパクトなエリアのようです。その川は、かつては街で暮らす人々の用水路であったのでしょう。さかのぼること江戸時代には、荷を運ぶ船が行き来していたのかもしれません。

その中でも小名木川という、「コナキガワ? 昔は河童の鳴き声がしていたのかしら?」というユニークな名の川を見つけたので、まず最初にのぞいてみることに。果たしてそれは「オナギガワ」と読むのでありました。

橋の姿は変われど、江戸のころから同じ川が流れ続けている……。清澄白河という街の奥深さに早くも触れた感じがします。

小名木川にかかる「高橋(タカバシ)」という橋。そこにはかつて歌舞伎役者の二代目・中村芝翫の邸宅があったのだとか。

小名木川にかかる「高橋(タカバシ)」という橋。そこにはかつて歌舞伎役者の二代目・中村芝翫の邸宅があったのだとか。


さて、観光客で賑わう街へと歩みを進めてまいりましょう。あちこちからコーヒーの良い香りが漂ってきます。途中で目に付いたのは、これまた何やら趣きのあるレモンイエローの古い建造物。

窓枠や外灯、号棟の表記など、意匠に昭和の趣きを残している清洲寮。

窓枠や外灯、号棟の表記など、意匠に昭和の趣きを残している清洲寮。

なんでも昭和8年に建てられた、戦火もかいくぐった集合住宅なのだとか! 現在は内部がリノベーションされ、おしゃれなデザイン事務所やショップが入居しているようです。

清洲寮に限らず、昔は何かの工場だった建物や民家が改装され、若手オーナーのショップになっているというケースが街のいたるところに見られました。いくつかのサードウェーブコーヒーの人気店も例外ではありません。

なるほど、この新旧のミクスチャーが清澄白河の魅力なのですね。

 

老舗と新顔が共存してユニークな街並を描く。

新進気鋭のショップと共に昔ながらの店も健在です。こちらは『魚保』という佃煮屋さん。

『魚保』にはよく煮しめられたさまざまな種類の佃煮がおいしそうに並んでいます。

『魚保』にはよく煮しめられたさまざまな種類の佃煮がおいしそうに並んでいます。

『魚保』で深川名物・あさりの佃煮を購入し、さて……と振り返ると、おや今度はまるでロンドンの一角にでもあるようなお店が。こちらは紅茶専門店の『TEAPOND』。

いまでは“コーヒーの街”と名高い清澄白河にあえて紅茶専門店を構えるとは……。物腰の柔らかい若いご店主でしたが、熱い心意気が伝わってきます。

『TEAPOND』には、これまでに出会ったことのないフレーバーばかりが揃っています。迷いに迷って「ラプサンスーチョン」という、松葉の煙でいぶした中国・福建省の紅茶をチョイス。ストレートでもミルクティーでもおいしくいただけるとのこと。

『魚保』の真向かいにあるモダンな『TEAPOND』。この新旧のコントラストがたまりません。

『魚保』の真向かいにあるモダンな『TEAPOND』。この新旧のコントラストがたまりません。

珍しいフレーバーの紅茶が豊富。選ぶのに迷ったら店長さんに相談しましょう。贈り物にぴったりな、スタイリッシュなパッケージ。

珍しいフレーバーの紅茶が豊富。選ぶのに迷ったら店長さんに相談しましょう。贈り物にぴったりな、スタイリッシュなパッケージ。


さて、話題のコーヒーを飲みに来たはずが魅惑の紅茶と出会い、すっかり満足した私。その後は古い印刷工場をリノベーションしたというカフェでランチ。道中に古書店や器の店などをちょこちょこのぞいたり、ふいに現れるレトロな建物を観察したり。

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まるで映画のセットのような佇まい建物があちこちにあり、フォトジェニックな街です。

まるで映画のセットのような佇まい建物があちこちにあり、フォトジェニックな街です。

立ち寄りたいお店がたくさんあって、歩き回るうちにすっかり夕暮れが近づいてきてびっくり。1日で回りきれるという読みが甘かった!

最後は清澄庭園でひと休み。初夏の緑に、散策疲れも癒されました。

江戸の豪商の邸宅跡と言い伝えられ、明治期に完成した清澄庭園。入園は午後4時半までなので早めに訪れましょう。

江戸の豪商の邸宅跡と言い伝えられ、明治期に完成した清澄庭園。入園は午後4時半までなので早めに訪れましょう。

江戸、明治、大正、昭和……。清澄白河にはさまざまな時代の名残香があり、新しい顔ぶれとゆるやかに共存しています。その心地よい混沌が、多くの人々を引き寄せる魅力となっているようです。まさに、東京が“東京”であり続けるゆえん。古い都市でありながらも、常に新参者に寛容なのです。

西育ちの私がこれまで東に寄りつかなかった理由は、まさにそこにありました。東こそが“本物の東京”であり、西の女としてはコンプレックスを抱いてしまうのです。

でも東京を出てしまうと、そんな青臭いコンプレックスもなくなりました。もっと東京を知りたい! これからは、隅々まで“故郷”の東京を巡ってみようと思います。

ところでコーヒーは……? そうなんです。数あるサードウェーブ系のコーヒーショップはどこも混んでいて、「後で寄ろう」と気楽に考えていたら、すっかり忘れていました! コーヒーを飲みに行ったはずなのに(笑)。

コーヒーショップ以外にも、清澄白河には魅力的なショップがたくさんありました。たとえば、日本文学やアート本が豊富な古書店『しまぶっく』や、リネン・キッチン用品などのセレクトショップ『onnelinen』、パンと焼き菓子の『コトリパン』など。そうそう、『東京都現代美術館』『深川江戸資料館』なんかもあります。

清澄白河のおすすめスポットを挙げればきりがないので、ぜひたっぷりと時間をつくって訪れてみてください。

右・『onnelinen』で購入したキッチンペーパー、左・『しまぶっく』で発見した萩原朔太郎の散文詩。

右・『onnelinen』で購入したキッチンペーパー、左・『しまぶっく』で発見した萩原朔太郎の散文詩。

■今回訪れた清澄白河のおすすめスポット
魚保
TEAPOND http://www.teapond.jp/
onnelinen http://www.onnellinen.net/
しまぶっく
コトリパン http://www.cotoripan.com/
清澄庭園 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index033.html

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