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ところで、フェルメールって何がすごいの?

文/写真・西島奈央(クロワッサン倶楽部読者モデル)

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クロワッサン倶楽部メンバーの西島奈央です。メンバーコラムで「アートノタシナミ」を担当することになりました。これからよろしくお願いします!

私はよく美術館へ行ったり、アートを求めて旅をしたりしますが、ママ友には、「アートって解説に書いてあることがよくわかんないし、なんだか難しそう」とよく言われます。

確かにそう思われがちですが、でも愛好家としては、そんな偏見もったいないわ! アートは心の贅沢よ! 大人の女の必修科目! ヨガやエステと変わらないの! なんて言いたくなるのです。

私も難しいことはわからないし、心の赴くまま、ピンときたものが好きなだけ。それにときめくポイントは人それぞれ違います。なので、自分の感じるアートのときめきポイントを、勝手に紹介させていただきます。

こんなのでいいのね、と思ってアートをもっと身近に感じてもらえたら嬉しいです。

すっごく暗い! 何が描いてあるのかよくわからない。

さていきなり、ヨハネス・フェルメール。

アートを身近に、と言っておきながら最初からちょっと硬めですが、フェルメールはみなさんご存知ですよね? フェルメールってどうしてこんなに人気があるんでしょう?

フェルメール作品のある展覧会は、もれなく連日大盛況。「真珠の耳飾りの少女」は、スカーレット・ヨハンソン主演で映画にもなり、いまや「モナ・リザ」を凌ぐ勢い。作品を求めて世界を旅する全点踏破者続出と、とどまるところを知りません。

かく言う私も大好き。だけど、好きになるまでには時間がかかりました。

私が最初にフェルメール作品と出合ったのは、さかのぼること20数年前。

なにやらフェルメールっていう17世紀オランダの画家がすごいらしいと聞き、ちょうどウィーン出張があったので、行ってきました「ウィーン美術史美術館」。

初めてのフェルメール。しかもフェルメールが最後まで手放さなかったという謎めいた作品「絵画芸術」。

光の画家フェルメール。本物に会えると思うともうドキドキ。しかし、初対面の印象は。

暗い……

すっごく暗い! 何が描いてあるのかよくわからない。

館内は空いていて、監視員もいないので近づいてガン見してみるも、く、暗い。

外光が入る部屋なのに、あいにくの雨で薄暗く、更に前面のアクリル板に反射してほんとに見えない。

トランペットを持った女性は確認できるけれど、手前の画家の後姿なんて、いるの?というくらい暗い。印刷で見たのとあまりにも違う。これで光の画家ってどういうこと?

「絵画芸術」出典 : Wikimedia Commons

「絵画芸術」出典 : Wikimedia Commons


あとで知ったのですが、この「絵画芸術」は修復を極力しないのだそうです。

修復をするかしないかは、所蔵する美術館の方針によるので、ここ美術史美術館では、描かれた当時を再現するのではなく、これ以上劣化させない修復、に留めるという方針だそうで。だからなおさら暗くみえたんですね。

次の出会いは1999年に東京都美術館で「手紙を書く女」。

「絵画芸術」に比べると小さ〜い。かわいい〜。なんて可憐。柔らかい毛皮の表現が精密。髪に結んだリボンが儚なげで綺麗。

でも、天才といわれる所以はよくわかりませんでした。

「手紙を書く女」出典:The National Gallery of Art

「手紙を書く女」出典:The National Gallery of Art


フェルメールの光って、これ?

それから日本はフェルメール作品の来日ラッシュ! 2015年までに20作品以上来ています。フェルメール作と言われているものが37点しかないのに。私も足繁く通いました。どうしてこんなに中毒者が続出するのか知りたかったので。

そしてそして、これはもしや、と思ったのは2007年に「牛乳を注ぐ女」を見た時です。フェルメール体験6作品目。

「牛乳を注ぐ女」出典:Google Cultural Institute

「牛乳を注ぐ女」出典:Google Cultural Institute

一瞬、時間が静止したような場面だけれど、真っ白い牛乳は正に流れ落ちているようだし、光があたっているパンは自ら発光しているみたい。吸い込まれそうに輝く奥の壁。かけられた籠は感触まで伝わってくるよう。そして卓上に散りばめられた光のつぶ。

ああ、これ? フェルメールの光って。

今までも、「光のつぶを散りばめたような」という表現を聞いていたけど、ふ〜んそうかもね、と思っただけでした。

それから心して他の作品を見ると、しっかり見えてきました光のつぶつぶが。これを意識すると美しさ倍増。この表現はすごいかも。


ミステリアスなところが魅力。

なんだか、フェルメールがわかったような気分になってきました。いや、ただの思い込みですけど。

フェルメールについては、世界中に研究者がいて、様々な角度から書かれた書物がたくさんあるし、素人が語ることなんて到底できないんですが、いいんです、ときめいたんだから。

「牛乳を注ぐ女」は、フェルメール作品の中でも、傑作中の傑作と言われているそうで、特徴が顕著にわかりやすかったんですね、私にも。

先日も国立新美術館の「ルーブル美術館展」に「天文学者」が出品されていたので行ってきました。これで14作品制覇。

やはり「天文学者」の前だけすごい人だかり。10秒くらい立ち止まっていると、「他の方のために立ち止まらず、前におすすみください」と係の人に言われてしまいます。

一回りしてもう一度並んでじっと見る、それを繰り返すこと3回。

「牛乳を注ぐ女」ほどではないけれど、穏やかに、画面中に散りばめられた光のつぶつぶ。ややピンボケ気味に、でも正確に描写された人物。静寂。私にとっては、とてもフェルメールらしい作品で、堪能しました。

2008年の「フェルメール展」(東京都美術館)と2015年「ルーブル美術館展」(国立新美術館)のフライヤー。

2008年の「フェルメール展」(東京都美術館)と2015年「ルーブル美術館展」(国立新美術館)のフライヤー。

フェルメールがこんなに人々の心を惹きつけてやまない理由のひとつは、技法や人物像がミステリアスなところなんだと思います。

現存する作品数も少ないし、人物を知り得る資料があまりにもないから、推測するしかない。同世代の科学者と友達だったかも? だからカメラ・オブスクラを使っていたかも? 真珠の耳飾りの少女は貧しい使用人だったかも? とかとか。

あれこれ検証し、推測していくところが魅力なのですね。

あとは天才的な感性と、誰にも真似のできない超絶的技法などなど。もっと知りたいと思ったら、関連書籍をぜひ読んでください。面白い本がたくさんあります。

さて、今すぐフェルメールが見たくなったという方。あります上野に。

昨年「聖プラクセデス」がオークションにかけられ、どなたかが(たぶん日本人)落札されて、国立西洋美術館に寄託されました。ブラボー!! 今年3月から常設展示されています。

この作品は、本当にフェルメール? と疑う人もいるようですが、どうやら真作らしいというのが最近の説です。最初期の作品なので、光のつぶ感はありませんが、興味を持たれた方は見に行ってくださいね。

来年もきっと何かが来日してくれることでしょう。

それとも、オランダへ飛びますか!

国立西洋美術館
http://www.nmwa.go.jp/

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