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【紫原明子のお悩み相談】毎週末、夫と喧嘩してしまいます。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>

こんにちは。夫と毎週末のようにケンカしてしまって、週末一緒にいるのが嫌になってしまいます。ケンカの流れは、夫が私に対して日常のちょっとしたダメ出し(車庫入れもっと上手にやって、朝の支度をもっと早くしてなど)をして、私がそれに怒って、怒られた夫が機嫌を損ねてムスッとしているというものです。夫曰く、気がついたことを口に出しているだけでダメ出しの意図はないそうですが、忙しい日常生活のクオリティを高めよというのは、私にはダメ出しにしか聞こえません。なぜそんな思いやりのないことを言うのかと腹が立ちます。 でも、ついカッとなって夫を責めてしまうのはいけないと思います。本人にダメ出しの意図はないらしいので、欠点を指摘されたような気分にならないためにはどう受け止めたら良いでしょうか。また、感情的になってしまった後のフォローはどうしたら良いでしょうか。 よろしくお願いします。

(相談者:しめじの山/30代で、大学の講師をしています。夫と二人暮しで子供はいません。)

紫原明子さんの回答

しめじの山さんこんにちは。
旦那さんと毎週末のように喧嘩をしてしまう、とのこと。

これ、色々な状況が考えられると思うんですが、最近顕著に喧嘩が増えてしまっているのか、それとも結婚してからずっとそうなのか。期間によっても、考えられる原因が違いそうです。

もしお二人が結婚して間もないとか、あるいは結婚してからずっと変わらず同じことで喧嘩が続いているようであれば、実際に旦那さんが、しめじの山さんの思う当たり前以上に神経質な方なのかもしれません。その場合はおたがいの理想とする暮らしのクオリティを具体的に話し合って、折り合いをつけていくしかないのでしょう……が、おそらく今回の場合、そうではないのだろうというがします。結婚されてからもうそれなりに時間が経っていて、なおかつ最初はそうでもなかったのに、最近になって深刻さを増してきたお悩み、ということなのではないでしょう。

旦那さんがささいなことで小言を言ったり、それに対してしめじの山さんが感情をぶつけられるというのは強固な信頼関係が土台にあることの証にほかならないと感じますし、旦那さんに憤りながらも自分の態度をどう改めるべきかと自省的であるしめじの山さんは、やはり基本的には、旦那さんのことを大切に思われているのでしょう。

信頼関係があって、相手を大事に思っていて、でも何かよく分からない力が働いて、イライラしたり、感情をぶつけたりしてしまう。

こういうこと、私の周りでも、結婚してそれなりに時間の経った夫婦に比較的よく起こってます。で、思うにその原因は、以前ほど相手のことを尊敬できなくなっていることにあるのではないでしょうか。

人が人を特別に好きになるとき、多くの場合、何かしら尊敬できる点があることが重要です。なぜなら尊敬できる点というのは、人間が持っていて当然のダメなところを帳消しにしてくれるからです。“自堕落だけど人一倍優しい”とか、“口うるさいけど人一倍面倒見がいい”とか、他の人より特に秀でているように感じられる長所が尊敬ポイントとなり、尊敬ポイントがあるから特別に好きになるのです。

ところが、最初のうちはそんな尊敬ポイントだった長所も、それなりの年月一緒に暮らして、相手のプライベートをすべて共有してしまうと、だんだん“すごい!”と感じなくなってきます。というのも一緒に暮らすことで相手がより近くなり、より高解像度で見えるようになります。すると、“尊敬ポイントはこういう背景からこういうふうに出来上がったもので、これがあることで彼に実はこんなメリットがもたらされているのだな……”と、ある意味マジックの種明かしみたいなことが起きてしまうのです。必殺技を見切った気になってしまう、とでもいいましょうか。すごさ、強さが、無効化してしまうことがあるのです。

加えて、相手が自分の日常になるということは、相手の特別な長所も日常の中にあってあたりまえになるということだから、自ずと、前のように目立たなくなってしまう、ということもシンプルに起こり得ます。

このように、長く一緒に暮らしていると、大なり小なり尊敬ポイントは目減りし、ともすれば消滅します。相手への尊敬がないと、相手を尊重することもできなくなり、とるに足らないことに口を出したくなったり、感情的に反論してみたりということが往々にして起こりやすくなってしまいます。つまり、しめじの山さんが旦那さんを尊敬する気持ちが減ってきているのと同様に、旦那さんの方もまた、しめじの山さんを尊敬する気持ちが、当初より減ってきている可能性もあるのではないでしょうか。

でも、だからって絶望しなくても大丈夫です! 人間はちょっとやそっとで見切れるほど単純にできていないし、夫婦を取り巻く状況というのは刻一刻と変化するので、たとえば引っ越しとか、たとえば交通事故に遭ったとか、何かしらイレギュラーな出来事が起きたとき、「雨降って地固まる」じゃないですが、相手が思わぬ力を発揮してくれて、忘れかけていた尊敬を再び取り戻せる、ということも多々あります。

さらに、じっと機を待つばかりでなく、ぜひやってみていただきたいことがあります。それは、“そこそこ”仲良しの友達夫婦を食事に招く、ということです。これは、いわば夫婦がお互いを見る目に、他人の評価を介在させるための施策です。そもそも相手を尊敬できなくなるというのは、相手がすっかり家族になってしまって、自分自身に内在化されてしまっているという状況でしょう。そして家とは、そんな親密な2人を包む、プライベートな空間です。ここに、“そこそこ”仲の良い友達夫婦を呼んで、夫婦ふたりでもてなしてみるのです。すると、馴染みきった家の中で、夫婦がちょっとだけよそ行きになります。よそ行きになると、完全にプライベートな場では同一状態だった2人がそれぞれに自立して、ほんのちょっと、いつもより広い距離ができると思うんです。そうすると、いつもよりほんのちょっと、他者として見られるようになるかもしれません。

さらに、招かれたお客さんは「素敵な家だね」とか「料理上手だね」とか、「こういうことしてくれる旦那さん/奥さん、素敵だね」とか、家の中のことや夫婦関係、そして夫/妻を、とりあえず何かしら(お世辞でも)褒めてくれるはずです。褒められるとただでさえいい気持ちになるし、何よりそういった友達の評価を通して、夫にはこんな良いところがあったんだなと、尊敬ポイントを再発見できるかもしれません。

距離が近い家族では気づかないこと、見えないところを見て、気づいてもらわねばなりませんので、この場合にはあまり親しすぎる友達夫婦でなく“そこそこ”親しい友達夫婦を招くのが理想的です。

裏切られて“憎い”とか、態度が威圧的で“怖い”とか、何か決定的なことに起因する強いネガティブな感情がない限り、意志の力で尊敬の再発見はできると、私は思います。よろしければぜひ、試してみてください。

イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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