暮らしに役立つ、知恵がある。

 

広告

『彼女のカロート』 著者 荻世いをらインタビュー ──「小説だからできることを追い求めました」

端正な文章にユーモアが充満する2作を収録。気鋭の書評家と小説家が選者を務める新たな文芸シリーズから『彼女のカロート』──本を読んで、会いたくなって。著者の荻世いをらさんにインタビュー。

撮影・石渡 朋 文・鳥澤 光

荻世いをら(おぎよ・いをら)さん 1983年、京都府生まれ。大学在学中の2006年に「公園」で文藝賞を受賞しデビュー。同年、監督・脚本を手がけた映画作品で、ぴあフィルムフェスティバルに入選。著書に『ピン・ザ・キャットの優美な叛乱』『東京借景』など
荻世いをら(おぎよ・いをら)さん 1983年、京都府生まれ。大学在学中の2006年に「公園」で文藝賞を受賞しデビュー。同年、監督・脚本を手がけた映画作品で、ぴあフィルムフェスティバルに入選。著書に『ピン・ザ・キャットの優美な叛乱』『東京借景』など

不穏な安らぎ。不可思議な普通。ミステリアスな平和。墓のメンテナンスを生業とする男が、〈墓地が世界中のどこよりも落ち着ける場所だ〉と感じるがごとく、相反する要素がぴたりと隣り合い、境目を侵犯しあい、意味を翻しながら進む『彼女のカロート』。表題作の文芸誌掲載から16年、併録の「宦官への授業」の発表から13年が経った今年、荻世いをらさんの2つの中編が、文芸シリーズ[First Archives]の第一弾として世に放たれた。

「久しぶりに読んで、我ながら変わった小説だなと思いました。カロートとは、お墓の石塔の下にある納骨室のこと。地中に穿たれたこの空洞のように、無意識が地下水脈のように繋がっていくような小説が書きたい。そう考える自分にとって重要なモチーフです」

自分の墓を作りたいと言うアナウンサーは原因不明の難聴に苛まれ、大リーグ行きの噂もあがる野球選手の夫はわずかな気配だけを漂わせて姿を見せない。墓の注文を請け負う男は、言葉を発するかわりに紙に文字を書いて彼女に渡す。奇妙な光景と、そこに響く音や湿度までが言葉によって現前して、小説に読み手を誘いこむ。

体験と実感に裏打ちされてユーモアが鋭く光を放つ

「別れ話をしているカップルが窓の外を見たら今にも雨が降り出しそうだったとか、小説における情景描写ってすぐに意味をなそうとしてしまう。でも生きていくなかで我々が経験することって常に予想外で、そこに新しい意味を見出しているはずなんです。ある考え方を持っていた人がいたとして、状況の変化によってその考えが内側から裏返されるようなアクロバティックさが現実にはある。だから予定調和的に意味を着地させることなく書いていきます」

言葉と軽やかなリズムが、書くことと読むことについて考えさせる。情景や意味が反転して快楽を連れてくる。難読症を抱えた大学生が老人の家庭教師をする「宦官への授業」には、点字により言葉の意味が揺れ動く鮮やかな瞬間も。

「僕自身が点字を読む練習をしていた時期があって、知恵熱を出しながら一日中触っていました。自分の指先から、意味というかイメージが生えてくるという強烈な実体験から生まれた表現です」

禍々しい紫色の飛行船が空に浮かんでいたり、空き地で馬を見つけたり。細やかにまぶされたユーモアが、不意に鋭く切っ先を向けてくるのも荻世作品の特徴だ。

「これも実体験なんです。飛行船はともかく、名もない空き地で動物と一対一で対峙したエピソードは人に話しても信用してもらえないですが。こんなふうに不意に外からやってくるものに向かうとき、人はその場で意味を作り出し、立ち上げる。それが読んだり書いたりすることの推進力になっていくのだと思います。瓶に手紙を入れて海に投げ入れるように書いた小説ですが、今また新しい読者の元に届くのならとてもうれしいです」

『彼女のカロート』 端正な文章にユーモアが充満する2作を収録。気鋭の書評家と小説家が選者を務める新たな文芸シリーズから。 フィルムアート社 2,200円
『彼女のカロート』 端正な文章にユーモアが充満する2作を収録。気鋭の書評家と小説家が選者を務める新たな文芸シリーズから。 フィルムアート社 2,200円

『クロワッサン』1173号より

広告

  1. HOME
  2. 『彼女のカロート』 著者 荻世いをらインタビュー ──「小説だからできることを追い求めました」

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載