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考察『光る君へ』9話 友を埋葬するまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の表情…「ソウルメイト」とはこんな残酷な意味だったのか

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。9話「遠くの国」では、まひろ(後の紫式部/吉高由里子)と道長(柄本佑)の大切な友人との悲しい別れが描かれました。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載第9回です。

文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

貴族どもに見下されてきた輩

『光る君へ』9話イメージイラスト「まひろと道長は直秀の亡骸に土を被せた」/南天
『光る君へ』9話イメージイラスト「まひろと道長は直秀の亡骸に土を被せた」/南天

道長(柄本佑)と直秀(毎熊克哉)の友情。直秀の口から出る「若君」の皮肉な響きが、これまでのふたりの繋がりを打ち消してしまうようで、悲しくなる。しかし道長が武者たちの手前、盗賊を解き放てと言えないのと同じく、直秀も道長が散楽を見に来ていた……盗賊と慣れあっていたと武者たちに思われぬよう、憎まれ口を叩いたのではないか。保輔(松本実)が道長に「あんた散楽をよく見に来ていた若君だろう。助けてくれ」と呼びかけたのを聞いて、そう思った。
もしそうであるなら、ますます悲しい。

直秀が武者たちに「お前らも貴族どもに見下されてきた輩だろう」と語る言葉に、大河ドラマ『平清盛』で「犬」と呼ばれ貴族に使役されていた、清盛の父・平忠盛を思い出す。彼が犬から貴族と同じ場所を目指し動き出すまで、まひろと道長の時代からまだ120年以上かかるのだ。

兼家(段田安則)の枕元で、床に伸びる自分の影をじっと見つめる道長。直秀のいう「貴族ども」の中に、自分も入っている。道兼(玉置玲央)の言葉「俺たちの影はみな同じほうを向いている」が思い起こされた。

あの言葉は、今後ずっと道長を縛り続けるのだろうか。

土御門殿姫君サロンは終了間近?

土御門殿姫君サロンは今週も、姫君がたの話に花が咲く。

「道長さまが東三条邸に入った盗賊をとらえるために獅子奮迅のお働き!」

東三条邸の騒動が、かなり盛った状態で伝わっているようだ。というよりも、姫君のお耳に入るまでの間に、実際に働いた武者たちの存在が消されているのが興味深い。直秀の言うように「見下されている」どころか意識すらされていない、貴族以外の人々。

穆子(むつこ/石野真子)が、赤染衛門(凰稀かなめ)に意味深な探りを入れる。第8話(記事はこちら)で穆子の夫・雅信(益岡徹)が言ったように、廊下で声をかけて話を振ってみたということのようだ。

これは……楽しい土御門殿姫君サロンは終了間近なのではないでしょうかね……雅信との間になにかあってもなくても、察しのよい衛門が職場を辞すか、穆子がやんわりと暇を申し渡すか。
そうはならないにせよ、五節の舞姫のあと殿方の「お渡り」のあった肇子(横田美紀)が来なくなったように、結婚は交友関係を変える。倫子(黒木華)が婿を迎えたらあのサロンは解散なのだろう。

お前はあの時の!

散楽の宿に踏み込んでくる検非違使。まひろと乙丸(矢部太郎)をしょっぴいていったのは、第2話(記事はこちら)のラストから第3話(記事はこちら)の冒頭で道長を捕らえ、そして第7話(記事はこちら)で散楽の上演妨害時にまひろを捕まえようとしていた放免(検非違使の下部)たちである。第7話ではまひろに掴みかかる際「お前はあの時の」と叫んでいた。辻で直秀たちの周りにいて顔を覚えられているので、仲間だと思われても無理はない。

そして、道長から検非違使への心づけ……「解き放ってやってくれ」「手荒なことはしないでくれ」。これがどう受け取られたのかはわからない。が、通常とは違う対応を求められる業務は、現場で働く人間にとって面倒で厄介なことには違いないのだ。今も昔も。

まひろは薄々気づいている

検非違使から救い出したまひろを道長が伴うのは、いつもの六条の荒れ屋敷。ここはすっかり、ふたりの秘密の場所になった。

道長「信用できるものは誰もおらぬ。親兄弟でも」「まひろと直秀は信じている」

いい場面だが、一瞬、……待って。百舌彦(本多力)も入れてあげてください!と思ったことを告白しておく。百舌彦は共にいるのが当たり前だから、信じる信じないではない存在なのだろう。

この場面で静かに、時にやや大きく風の音がする。この作品は、自然の音が効果的だ。
第8話、まひろの琵琶の演奏にあわせて、呼吸のように風の音がした。音楽と共に、各話で風や虫の音、鳥の声がどのような効果をもたらしていているのか。これからも耳を傾けたい。

「三郎でよい」
「もう三郎とは呼べないわ」

不満そうな道長だが、まひろはとうに身をもって知っている。上流貴族である道長と自分の間に、どうしても越えられない身分の差があることを。

「うちは土御門殿の近くなので……あのお屋敷の方に見られたら、色々と言われるので」

右大臣家と左大臣家がライバルである、姫君サロンできゃあきゃあ言われるというほかに、倫子の道長への恋心を、おそらくまひろは薄々気づいているのだ。

「何を言われるというのだ」

当然、道長はまだそのことを知らない。

実資の好感度

義懐(よしちか/高橋光臣)が実資(秋山竜次)に命じる。
「帝のおそばにおなごを送りこめ、もっとつぎこめ」
む……無神経ー!デリカシーゼロ!
それに対して実資は、

「いくらおなごをつぎこんだとて、帝のお心が癒されねばどうにもなりませぬ」

彼の人間としての誠実さ、真面目さが伝わる。実資の好感度が天井知らずに上がっていく、どうしましょう。

そしてよりによってこの人に「怠慢」だと言う義懐。どうしてこうも地雷を力強く踏み抜いて怒りを煽るのが巧いのだ、毎週感心してしまう。高橋光臣、憎まれ役がとても上手だわ。

今日も今日とて愚痴る夫・実資に桐子(中島亜梨沙)が、

「日記に書けばよろしいのでは?」
「日記には書かぬ!恥ずかしくて書けぬ」

でも書いちゃうんでしょ?という日本全国からの声が聞こえてきそうな台詞じゃないか。

兼家と晴明はグル

第8話に続き、我が子にドッキリをしかける兼家の目覚め。東三条邸に響き渡る詮子(吉田羊)の悲鳴、不快害虫がこちらめがけて飛んできた時くらい大きく長々と叫んでる。無理もない。

そして兼家の種明かし。
驚く子どもたち……道隆(井浦新)、詮子、道長とは違い、一人だけ「俺は知ってたぜ、俺だけは父上から明かされていたぜ」という道兼(玉置玲央)の顔!

レビュー8回で予測していたが、やはり兼家と晴明(ユースケ・サンタマリア)はグルであった。ここで面白いのが、兼家が目を覚ますまでは晴明が本気で祈祷し、瘴気を払い、覚醒した兼家を気遣っているところである。そして、兼家の野望が健在であることを読み取った瞬間、「私の秘策、お買いになりますか」。
この作品の安倍晴明は、祈祷も策謀も、真面目に同じ熱量でこなす仕事人だ。

兼家「帝を玉座より引き降ろし奉る!」

不敬と最高敬語が同居している。なんちゅう台詞だろうか。

兼家、狸寝入りの間に休息と睡眠をしっかり取ったせいか、倒れる前の数倍元気になっているように見える。目はらんらんと野望に燃え、声は気迫に満ちて恐ろしい。今週も段田安則の芝居に釘付けである。

道兼を信じる花山帝

続いて、道兼の種明かし。

「兄上と道長より、私が役に立つと父上がお思いになったからですよ」

自信満々に述べられても、それについては特にショックでもなさげな道隆と道長。そりゃそうだ。道具として役に立つかどうかを自慢されてもなという……道兼が得意顔になればなるほど、彼の体の傷以上に痛々しい。

その道兼の傷を、花山帝(本郷奏多)は彼を裸にして確認していた。一体全体、どういう会話の流れで帝が蔵人(くろうど)の衣を剥ぐことになったのか気になる。

花山帝「義懐が子を作れとうるさい」「忯子(井上咲楽)でなければ嫌なのに」

これまで何度か述べてきたがやはり花山帝、とことんピュアな御方だ。そしてその純粋さがもたらす孤立感が、道兼を信じさせてしまう。

鳥辺野!

直秀ら盗賊団の流罪決定。盗賊なら、せいぜい鞭打ちくらいの罪のはずが流罪とは……といぶかる武官たち。出立は卯の刻、夜明け頃の時間帯だ。

直秀を見送りにまいろうとまひろを誘うあたりに、道長の暢気さが窺える。しかし。
時間よりも早くに居なくなった盗賊たちの行き先を検非違使の門番に問いただすと

「鳥辺野に」

鳥辺野!
この流れでその地の名を聞いて、青ざめぬ歴史ファンはいない。平安時代そこは風葬、鳥葬の地であった。風葬・鳥葬とはその名の通り、亡骸を置いて土に還す、あるいは鳥が啄むままにする葬送である。
道長がまひろを乗せて駆ける馬の両側に、森に分け入って進むふたりの周りに、累々と横たわる多くの屍を想像しながら観ていた。

そして、息絶えて烏が群がっている直秀ら―。

「愚かな」
「余計なことをした」

道長が自らを責める。人を殺さぬ盗賊であれば鞭打ちの刑で済んだものを、自分が検非違使に賄賂を握らせたために流刑となり、結果殺されてしまった。

盗賊を鞭打ちもくれず、腕の骨も折らずただ解き放つわけにはいかない。流罪なら鞭打ちより重い刑罰だし都から追い払える。しかし、道長の同僚が「7人も流罪にするには手間がかかる」と言った。967年施行の『延喜式(えんぎしき)』によると、流刑地は一番近くとも越前(福井県)と安芸(広島県)だ。流刑地までの護送は検非違使の仕事だろう。盗賊ごときにそんな手間をかけるのは馬鹿馬鹿しい、殺しても上流貴族である道長にバレはすまい。あとは烏が片づけてくれる……となったのか。

人の心の裏を読むことを知らず、中途半端な力を振るって友を死なせてしまった。

苦しんだのか、悔しかったのか。直秀は土を固く握りしめて息絶えていた。その手から土をはたき落とし、扇を握らせる道長。盗賊としてではなく、散楽の楽人として逝けるように。

『小右記』には、実資がわずか6歳の愛児を亡くした時のことも記されている。亡骸は東山の八坂の平地に置かせた。悲嘆に耐えかね翌日、人を遣わして亡骸を見に行かせたら「既に形無し」という答えで、ますます嘆きが深くなったと。弔いのあと人が立ち去ってすぐ鳥と野犬に食べられてしまい、その姿は親に詳しく伝えられる状態ではなく、ただ「形無し」と報告するしかなかったのではないか。
風葬、鳥葬が当時の一般的な葬送であったとしても、それに人々が心を痛めなかったわけではないということがわかる。

だからこそこの作品では、まひろと道長はふたりで穴を掘り、直秀たちを埋葬する。このままにしておくのはとても耐えられないと。

ソウルメイトの意味

卯の刻の薄明りの中に亡骸を見出し、必死で穴を掘るうちに日が高くなり、7人目の直秀を埋める頃には夕暮れ。手で掘るには限界がある。せいぜい骸を横たえ、上に土を被せる程度しかできなかったかもしれない。しかし、それに没頭せねば心が壊れてしまいそうになる。
泣くこともできぬ、虚ろなまひろと道長の表情に胸が張り裂けそうだ。

すまない、すまないとようやく泣き叫ぶことができ、抱き合って涙する。
幼い頃に目の前で母を殺されたまひろと同じく、道長もこの世の理不尽を思い知ることになった。

ふたりが埋めて別れを告げたのは、青春そのものかもしれない。明るい陽光が照らす辻で散楽を見て朗らかに笑っていたあの頃の自分たちにはもう、戻れないのだ。
仲間の遺体をともに埋めた関係……この作品での、道長の人物紹介にある「生涯離れることのできないソウルメイト」とはこんな残酷な意味だったのかと呆然とする。

毎熊克哉に長生きする役を!

鳥葬には、魂を天に届ける意味があると聞いたことがある。
啄まれた直秀は、都という鳥籠から、海の見える遠い国に解き放たれたのだろう。さようなら、直秀。

毎熊克哉は去年の『どうする家康』に続き、今回も獄に繋がれたのち死ぬという役であった。次に大河ドラマに出演するなら、主人公の生涯の側近であるとか親友だとか、とにかく最終回近くまで長生きする役であってほしい。そうでなければ、大河ドラマファンの私たちの心の傷は癒えない気がする。また大河に戻ってきてください。

惟規の明るさは救い

まひろの弟・惟規(高杉真宙)が大学寮に出立する朝。まひろの衣装が変わっている。埋葬時に着ていた袿は泥で汚れ、そして触穢もあり、使えないということであろうが、彼女の内面と共にすこしずつ衣装も変化してゆくのか。

為時(岸谷五朗)から息子への教え。

一念通天→ひたすら信じて念じれば天に願いは通じる 
率先垂範→率先して人に模範を示せ
温故知新→古きことを学び新しきことを見出せ 
独学固陋(どくがくころう)→一人で学ぶと見識が狭くなる(師匠や学友を得よ)

これが通じているかはともかく、惟規の明るさは物語の中で救いでもあった。成長はしてほしいけど、明るくて姉思い、そのままの君でいて……と願うし、大学寮に入り物語に出てこなくなるのは淋しい。乳母・いと(信川清順)でなくとも泣きたくなる。

「男であったら勉学にすこぶる励んで内裏にあがり、世を正します」というまひろ。
紫式部は『源氏物語』で、光源氏の嫡男・夕霧を、大学寮に入り学問を修め政治家として大成していく人物として描いている。紫式部自身が、学問は政治家に必要だと考えていたことは間違いない。

父と娘の笑い声で「つづく」となる9話。静かな明るさに包まれた終わり方でよかった。

次週予告。右大臣家が一丸となって帝を玉座より引き降ろし奉る、ついに寛和の変! 六条の荒れ屋敷でのまひろと道長も大変!!! あれっ。源明子(瀧内公美)登場する?
第10話も見逃せない回ですね。

*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
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 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
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 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
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『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
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『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天
『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天
『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天
『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天
『光る君へ』9話イメージイラスト/「まひろと道長は直秀の亡骸に土を被せた」/南天
『光る君へ』9話イメージイラスト/「まひろと道長は直秀の亡骸に土を被せた」/南天
 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
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『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
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『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天
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