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考察『光る君へ』7話 勇壮な打毬試合に拍手!道長(柄本佑)に絶望するまひろ(吉高由里子)の姿にタイトル「へ」の謎に思い当たる

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。7話「おかしきことこそ」では、青年貴族たちの躍動感溢れる打毬試合も話題となりました。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載第7回です。
  • 文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

悲しみの花山天皇

『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天

花山天皇(本郷奏多)最愛の女御・忯子(井上咲楽)の死。死は穢れと考えられていたゆえに、天皇とそのお傍近くに仕える貴族は遺体に近づけない。花山帝は妻との思い出の品……初夜に使用した緊縛用の紐を握りしめて涙に咽ぶしかない。愛する人を喪う悲しみは身分の高い低いに関わりないというのに、直接別れを告げることもできないとは……まことに痛ましい。

どうなる?直秀、散楽一座

直秀(毎熊克哉)らはやはり、噂の義賊だった。義賊であっても盗賊は盗賊。人を初めて射て、後味の悪さを覚える道長(柄本佑)に同僚の武官は言う、盗賊は獣よりも下だと。

前回6話(記事はこちら)での、直秀の「人扱いされていない」が脳裏をよぎる。捕縛されたとき、彼らはどうなるのか。直秀も散楽一座も、頼むから長生きしてほしい。

道長と晴明

兼家(段田安則)と安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)との間で交わされる恫喝と皮肉、嫌味の応酬。晴明の「こういうやり取りが楽しくてならないのです」。実際、この作品の彼は陰謀の渦の中心に座り、権力を求める貴族らと渡り合うことを楽しんでいるように見える。もっと回れ。もっと大きく。もっと見事に……と。

道長の顔をまじまじと見て、ふっと笑う晴明。我々には優しくおっとりしたこの青年が未来の最高権力者とはとても思えないが、晴明の目にはどう映っているのか。

道綱の名を吹き込む寧子

兼家と寧子(財前直見)の閨。帝に毒を盛り、帝の御子を呪詛した男が夜中にうなされ怯える。晴明の脅し文句が利いたとも取れるが、寧子の慣れた様子からして兼家は昔から、謀略のたびにこうして悪夢に苛まれていたのではと想像した。不敵な権力者でも、呪詛の力を信じる平安時代の人間が他者からの呪いと怨霊を恐れるのは至極当然だ。

一族のため政のためなら悪事も厭わぬ男の本音を垣間見た気がして切なくなったが、すかさず愛息・道綱の名を吹き込む寧子に笑ったし、ふと我に返って「悪夢と道綱になんの関係が?」と訊ねる兼家にも笑った。

まひろの脚本と直秀の笑顔

道長から離れる……彼への思いを断つために、他に打ち込み脚本づくりに邁進しようとするまひろ(吉高由里子)。散楽一座の上演作品はずっと同じアキの女御ネタだったから、新しい物語が一座にも観客に喜ばれるのはわかる。

猿役の役者たちが胸に藤の花をつけているから、観客には猿=藤原、右大臣家と伝わるのだね……。強欲のあまり馬糞を頭にいただいて喜ぶ猿の姿に大衆は大ウケ。
自分の脚本への観客の反応のよさに嬉しくなるまひろ、その笑顔に思わず顔をほころばせる直秀。この一瞬のシーンがすごくいいので、再放送やNHKプラスで是非見ていただきたい。狐を演じていても、その瞬間だけ直秀に戻るのが素敵なのだ。

日記には書かぬ!

忯子を喪い何も手につかない花山帝。御簾の内に寵臣の義懐(高橋光臣)と惟成(吉田亮)、為時(岸谷五朗)を入れている。東宮時代からの習慣であり、そして失意の淵にあるとはいえ、第3話で円融帝(坂東巳之助)が体調不良時であっても、相手が信頼篤き実資(秋山竜次)でも、昼御座(ひるのおまし)で御簾ごしに対面していたことを思うと、花山帝の子どもっぽい公私混同ぶりが際立つ画面。

「忯子に会いたいなぁ」。この小さな台詞で幼稚さと、晴明の言う通り「ふたたび女にうつつを抜かす」ことを予感させる本郷奏多がよい。そんな帝に篤く信頼され重用される義懐。

そしてそれを自宅で蹴鞠をしながら愚痴る実資。蹴鞠の達人だと伝わる彼が、微妙に下手なことに笑ってしまった。いや、こうやって自主トレして徐々に上手く、達人級になっていくのだろう。双六遊びをしている実資の妻・桐子(中島亜梨沙)「あなたそれ、日記に書きなさいよ。もう聞き飽きた」と言う。実資が現代に生きていたらSNS、ブログに詳細に長文でめっちゃ書くタイプだろうな……一人称は「小生」かなと思いながら観ていた。日記には書かぬ!書くに値しない!と腹立たしげに言う彼だが、日記『小右記』にはこの年、寛和元年の除目で義懐が参議に昇進したことについて「奇しむべし、奇しむべし(奇々怪々である)」と……結局書いちゃっているのである。

怖い道隆、チョロい道兼

兄・道隆(井浦新)から誘ったのであろう、弟・道兼(玉置玲央)との月見の酒宴。

道兼……チョロい。愛情と理解を示してくれる相手に対してここまで無防備な人間は到底、政治家には向いていないだろう。そのような男になるよう幼い頃からコントロールしてきた兼家が、そして弟を陥落させた道隆が恐ろしい。前回6話で次世代の公達を取り込むために呼びかけたときといい、相手が一番ほしい言葉で的確に心を打つ。

「お前を置いてはゆかぬ」。

……のちのことを思うと、ちょっと怖い台詞でもある。

第6話までは父上のためなら汚れ役でも構わぬという道兼だったが、これでは父だけでなく兄のためならなんでもやるとなってしまうだろう。第4回レビューで触れたが(記事はこちら)、父の兼家がその次兄・兼通との確執で出世を阻まれていた当時、道隆は20代だった。兼家の子らで誰よりも兄弟間の力関係を意識しているのは道隆ではないか。

いや、道隆が弟思いで、心から道兼を慰めているだけという可能性もある。というか、そうであってほしい。そうでなければ道兼が哀れだ。

お口がブレない公任

投壺(とうこ)。蹴鞠、双六といい、後の場面の打毬といい、平安時代の貴族たちの遊びが出てくる回である。妹・忯子の死を静かに嘆く斉信(金田哲)に公任(町田啓太)が、「身罷られる前に、偉くしてもらっておけばよかったな」。
「もうそんなことどうでもよい」
「……すまぬ(ちょっと反省)」

今週も公任のいらんこと言うお口がブレない。このままどれだけ軽口のバリエーションを広げていくのか、ちょっとわくわくしてきている。

道長「入内はおなごをけして幸せにはせぬと信じている」。

しかし、身内の女達が入内し皇子を産むことが一族の栄達に直結すると、ここにいる誰もがわかっているのだ。

貴族に仕える武者の存在

「安和の変」、「アキの女御」など散楽一座のこれまでの藤原北家シリーズと比較しても、評判を呼んでか集客がよい「狐と猿の物語」。人垣の向こうから、わざわざ高い所に登って見る客までいる。しかし、耳目を集めれば、届いてほしくないところにまで届いてしまうのは、平安時代も現代のネット社会も同じである。右大臣家の武者たちが上演妨害に殴りこんできた。

ここで、おお! と身を乗り出して見たのは、その武者たち。そう、武者・武士とはある日突然ひょっこりと歴史の舞台に出てきたわけではないのだ。大河ドラマでは『平清盛』『鎌倉殿の13人』など、平安時代末期の武士が主人公の作品があり、彼らが武家社会の礎を築いてい、その中でもがく経緯が描かれた。その更に前の段階、貴族に仕える武者の存在は、大河ドラマファンとして見逃せない。道長を主人として仕えた大江山酒呑童子退治伝説の源頼光も、はじまりの武者の一人である。いずれこの作品に出てくるかもしれない。

段田安則に震え上がる

花山帝をこれ以上騙すことはできないと、苦しい胸の内を吐露する為時に「長い間苦労をかけたな」と応える兼家。間者をやめたい気持ちを理解してくれたのか、右大臣……と思いきや。「もうよい。これまでといたそう」と微笑んだのち一瞬だけ、目に本心を宿らせる段田安則の芝居に震え上がった。下げていた頭を上げてあの目を見ても兼家が自分の気持ちを理解してくれたと思ったのだとしたら、為時はつくづく善良な人だ。
善良というのは本来よいことなのだけれど、権謀術数渦巻く宮廷の中心近くで生きるには危険すぎる。安倍晴明とは真逆の人物……。

そして、喜々として報告する為時を「東宮様がご即位されるときに官職を解かれてもよいのか!」と叱りつける宣孝(佐々木蔵之介)。
ですよね。
まひろだって、この選択がまずいということは理解しているのだろう。しかし父を尊敬している彼女は宣孝のように頭から否定する気にはならない。ましてや右大臣家は母の仇である。父を応援するしかないのではないか。ああ、世渡り下手な父とその娘よ。

心躍る打毬試合

倫子(黒木華)はじめ、姫君たちお誘いあわせの上奮ってご観戦の打毬試合。

試合前、斉信招待席の最前列堂々と座るききょう(ファーストサマーウイカ)。てっきり暫く出てこないのだろうなと思っていたので、2週連続の登場が嬉しい。こっそりとした「どちらの姫君かしら……」には頭をしゃんと上げて名乗り「斉信さまに『是非に』とお招きを受けましたの」。そして赤染衛門(凰稀かなめ)の「才気溢れるお方とのご評判」には、そう!わたくし、才気溢れてるんです!という笑みを返す。

さすがききょう、初対面の姫君がたを前にしても圧が強い。いけいけGОGО、ききょう。

打毬試合は勇壮で、心躍る楽しい場面だった。馬を操りながら長い打毬杖を扱う、これに興ずる貴族たちの姿を撮影するには俳優陣もかなり練習しただろう。演者の皆さん、この画面を成立させた制作の皆さんに拍手。

観覧席に座る意中の女子に視線を送る、熱く見交わす。さながら球技大会で張り切る男子とキャッキャする女子の如し。平安時代に現代のスポーツ観戦スタイルを落とし込んだ演出を思い切り楽しませてもらった。

ドラマ上、貴族の女性でも顔を隠さない演出ありきの観覧席だったが、実際に深窓の姫君が屋外に出た場合はどうだったであろうかと想像してみる。屋根のあるところで御簾の内からか、あるいは牛車の中からの観戦だろうか。倫子がお友達と乗る高級車の前簾からこぼれる、色とりどりの袖や裾。その周りには牛飼いの童や従者が控える。ききょうが乗って現れるのは、高級ではないが趣味のよさがうかがえる、すっきりとした車。隣につけた車に、姫君たちがざわついて「どなたかしら?」。従者に、あちらはどなたか聞いてまいれという申しつけがある。ききょうの従者より、清原元輔の娘です。斉信さまからお招きにあずかりましたのでという挨拶がある。言伝を聞いて高級車の中で、ふうん……と頷きあう姫君たち……。しかしこれでは、清少納言と赤染衛門という、平安超有名文学者同士が出会う楽しい場面は成立しない。遅れてまひろがやってきて、一緒に観戦という画面にするのも難しい。

映像作品、ドラマ的には、これでよかったのだ。

「雨夜の品定め」part2

突然の雨と猫の小麻呂がもたらした、若い公達たちによる本音トーク。第3回レビュー(記事はこちら)でも触れた、「雨夜の品定め」のオマージュpart2だ。というよりも内容がえげつない分、こちらが本番であった。

観戦に集った女性たちについて、まひろを地味でつまらん、あれはないだの、倫子までもったりして好みではなかっただの。容姿についての評価は勿論だろうが、まひろを一番傷つけたのは、

「女こそ家柄が大事だ」「家柄のいい女は嫡妻にして、あとは好きな女のところに通う」

これに同意を求められた道長から、否定の言葉が聞こえてこなかったことだろう。もうこれ以上聞きたくない。小麻呂のことも忘れて駆けだしたのも無理はない。あのあと、小麻呂は誰かが保護してくれたと思いたい。

ちなみに、小さく聞こえた公任と斉信の会話。

「斉信の好いたおなご(ききょう)は人妻だろ」
「えっそうなの?」

そうなの。清少納言は16歳頃に橘則光という貴族と結婚し、寛和元年(985年)時点では一児の母である。橘則光については『枕草子』で彼女自身が「こんな男性でした」と書いているので、是非お読みいただきたい。彼は『今昔物語集』『宇治拾遺物語』などにも逸話が残る人物なので、そうした物語と妻から見た顔を比べてみるのも楽しい。ただ、則光と清少納言の夫婦関係は長続きせず、別れてしまった。

だから『光る君へ』なんですか?

道長からの恋文を焼き捨てるまひろ。

道長さまから遠ざからねばならないと考えていた、この恋が叶うなんて思ってはいなかった。しかし、上級貴族の男たちの本音によって恋心が叩き潰されることになるとは。

私は『光る君へ』のタイトルについて、ずっと考えていた。「光る君……へ……」ってなんだろうと。誰かに、何かを伝えたいからこその「へ」。

第5回レビュー(記事はこちら)でも述べたが、まひろ──紫式部がいずれ書くことになる『源氏物語』は、道長ももちろん読む。逃げた小鳥が出会いのきっかけとか、人生を大きく変える場所が六条の荒れ屋敷とか。これまで私が『源氏物語』のオマージュだなと見ていたものは、まひろが道長と経験した思い出で、それを物語に書き込んでる。他の誰にもわからないが、道長だけにはそれとわかる。……という、まひろから「道長へ」のメッセージとか、そういうことですか!? だから『光る君へ』なんですか!??

と、第5話の時点で、ひとり興奮していたのだ。紫式部と道長の史実の人生を考えれば、書き込まれるのは愛の思い出だけとはならないだろうともそのとき考えたのだが、まさか7話の時点で早速その事態になるとは思わなかった。つらい「雨夜の品定め」であった。

道兼とまひろがついに?

次週予告。
兼家、倒れる! ネガティブ思考道兼。直秀とまひろ、一緒に行くかってどういうことですか。頬染める倫子、久しぶりの穆子(石野真子)、まんざらでもなさそうです。盗賊団捕まる!? そして、道兼とまひろがついに直接対峙!なんで? ……第7話が楽しみですね(そして、小麻呂ちゃんの安否が気になりますね)。

*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天
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