くらし

考察『光る君へ』8話「一緒に行くか?」 「…行っちゃおうかな」遂に捕縛された直秀(毎熊克哉)の運命は?

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。8話「招かれざる者」では、まひろ(後の紫式部/吉高由里子)をめぐる人間模様に大きな変化が訪れます。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載第8回です。
  • 文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

月を見上げる道長とまひろ

『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天

冒頭、月を見上げて互いを想う道長(柄本佑)と、まひろ(吉高由里子)。あの人への想いは断ち切れたのだからと自分に言い聞かせるまひろだが、そう言い聞かせている間は断ち切れてはいないものだ。

演じる俳優についてこう述べるのは野暮なことと承知の上で……ふたりとも実年齢を忘れさせるほど初々しい。俳優とはつくづく凄い存在だと思う。

打毬試合の人気は公任と道長

オープニング明けに、小麻呂ちゃんの無事を確認!
全国の愛猫家の皆様、一安心したところで物語に没頭しましょう。

第7話(記事はこちら)の打毬試合の興奮冷めやらぬ姫君サロンの皆さん。素敵だった…! とキャッキャとする会話で上がる名前が公任(町田啓太)と道長。ききょう(ファーストサマーウイカ)が「彼から是非にと招かれましたの」と高らかに名前を挙げ、実際熱烈なアイコンタクトがあった斉信(金田哲)が、まるでいなかったかのような扱いであることがリアルで笑う。

直秀(毎熊克哉)をお気に召した赤染衛門先生(凰稀かなめ)の名言。

「人妻であろうとも心の中は己だけのもの」
「そういう自在さがあればこそ、人は生き生きと生きられる」

ハッとするまひろ。そう、心は自由。恋をする者にとってだけでなく、創作者にとって、これは大切な啓示だ。赤染衛門が紫式部をこうして導く存在になるのが、大河ドラマというフィクションの楽しいところである。

直秀を牽制する道長

東三条邸を見て回る直秀(毎熊克哉)、盗賊としての下調べなのは明らか。道長は矢傷の指摘で直秀を牽制しているのだろう……俺はお前があの盗賊だと気づいているぞと。その牽制は当然、もうやめておけという忠告でもあるのだが、通じているのかと不安がよぎる。

深く知ればより嘲ることができると言う直秀。第5話(記事はこちら)で、身分を笑い飛ばす散楽をやっても「それで世の中が変わるわけでもない」と語ったことを思い出す。散楽にしろ盗賊にしろ、何かわけがあるように思えるが、それが明らかになる日は来るのだろうか。

直秀「一緒に行くか?」

直秀の「そろそろ都から去るし」。
散楽が上演妨害の襲撃を受け、盗賊団も内裏に侵入したことで、ますます警戒が強まっているのだろう、やめ時なのだ。直秀が語る都の外の世界……丹後や播磨、筑紫。海には漁師が、山にはきこりが。まだ見ぬ地の話に胸ときめかせ、目を輝かせるまひろ。
播磨と筑紫は『源氏物語』に登場する。あの山を越えたところに広がる世界を、物語に描き込んだのかも、と想像してみる。

この場面の音楽が素晴らしい。青く輝く海原も、山風に揺れる梢も感じる。まひろとともに、まだ見ぬ世界に憧憬を覚える。
その音楽がふと止み、

「一緒に行くか?」
「……行っちゃおうかな」

笑って「行かねえよな」。

半分以上本気の誘いと、答え。そしてすぐに打ち消される本気。数秒の間がすごくいい。

義懐という存在

今週も関白と左右大臣に「義懐ごときが」と言われている、義懐(よしちか/高橋光臣)とは一体どういう人物か。

彼の父は右大臣兼家(段田安則)の長兄、かつて関白であった藤原伊尹(これただ)。つまり義懐は、兼家の甥にあたる。そして花山帝(本郷奏多)が「叔父上」と呼びかけているとおり、花山帝の母は義懐の同母姉だ。
父・伊尹と兄たちを亡くしたために一旦は出世レースから遠ざかったものの、藤原北家の嫡流で、父が関白だった義懐は兼家を脅かす存在なのだ。血筋の点からいえば「ごとき」では決してないが、この作品での彼は言動にその言葉を誘発するものがあるようだ。

そこに、花山帝寵臣としての爆速出世……並みいる公卿を、右大臣家嫡男・道隆(井浦新)さえをも追い抜いて。現関白と左右大臣が結託して危機感を抱くのも当然であった。

『鎌倉殿の13人』もそうだったが、大河ドラマの登場人物は血縁者同士で死闘を繰り広げがち……。

恋に落ちた倫子

左大臣家夫婦による、倫子(黒木華)の婿品定め。

先週、女性に対して言いたい放題だった公任(町田啓太)が穆子(むつこ/石野真子)に
「頭脳明晰でイケメンだけど、女泣かせで有名。倫子が同じように泣かされたら可哀想だ」という評価をくらう。

第7話で「大事なのは愛だの恋だのじゃない」と言い放った公任だったが、彼自身もこうした査定からは逃れられないということだろうか。

夫・雅信(益岡徹)の「赤染衛門がそう申しておった」に穆子の「あなた。衛門とふたりでお話なさったの? 何か……ホホホ。いや」。敏い穆子のやきもちと釘を刺す言葉が、怖カワイイ。石野真子がとてもキュートである。

道長の婿入り話に、まんざらでもない倫子……まんざらでもないどころか、頭からダイブする勢いで恋に落ちている。冒頭の姫君サロンで道長の名前が出たときの表情といい、黒木華の演技力が光った。
あと、メイクさんすごくないですか?恋をして上気した頬、艶やかなグラデーションの唇。再放送やNHKプラスでご覧になる方は、その美しさを確認してほしい。

忯子の霊が降りた?

義懐による陣定停止宣言。

それに異を唱える兼家……凛々たる声とその説得力に、この男が権力欲に取り憑かれた悪人というだけではない凄みを感じる。裏で策謀を巡らせてもそれは己のためではない、この国のためだと信じて疑わない男だ。
為時(岸谷五朗)の言うとおり、いま政を動かすには義懐でも、関白・頼忠(橋爪淳)でも左大臣・雅信でも駄目なのだ。敵わない。

しかし、その右大臣・兼家が倒れた。

医師の診察後の指示がまず、魂が去らぬよう呼び返すこと。それだけ? と驚くが、これは「魂呼び」「魂呼ばい」と言って、明治時代の頃まで広く行われていた呪術である。呼び返す方法は様々で、枕元で名を呼ぶ、屋根の上で、あるいは井戸の底に向かって叫んだりしたという。医療が発達していない、そして土葬が中心だった時代は遺体を埋葬までしばらく置いて復活を祈る、「殯(もがり)」の期間が設けられた。その間に仮死状態であった人間が息を吹き返し、魂呼びの効果だと信じられた例もあったのではないだろうか。

寄坐(よりまし)に忯子(井上咲楽)の霊が降りた? しかし、彼女の腹の御子の呪詛を兼家と大臣たちから請け負ったのは安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)なのだ。寄坐と晴明が繋がっているとしたら。可能な現象、いや演出ではないか。

愛と憎しみを簡単に分離できない家族

右大臣家の子どもたちが、それぞれに父の枕元に侍る。

生き延びて道を示してくれと呼びかける道長。

道隆は心配そうに父を見守りながら、壺を磨く。第1話(記事はこちら)での父と嫡男ふたりの場面……「世の流れは己で作るのだ」「肚を据えよ。そなたは我が嫡男ぞ」と教えを説きながら壺を磨いていた父と同じ仕草だ。「魂呼び」に、この世に繋ぎ止めたい人の行動をなぞるというものがあるのだろうか。

父の手をそっと握る詮子(吉田羊)。父が嫌いですときっぱり言ってのける彼女だが、家族というものは愛と憎しみを簡単に分離できない、厄介な存在である。それを感じさせる姿だ。

そして、道兼(玉置玲央)。この場面で目を開け、笑みを浮かべる兼家に、道兼と一緒に驚き、テレビの前でギャッと叫んでしまった。ふと目を覚ましたのか、それとも道兼を待っていたのか。この時点では、まだわからない。

道兼の告白

道兼が為時に、父から虐待を受けていると告白する。真に迫っていて思わず本気にしてしまいそうだが、幼い頃から身体的暴力を振るわれていたとしたら、あの優しい母・時姫(三石琴乃)が兼家と睦まじく過ごしていたとは考えにくい……。第1話、閨で兼家の肩を揉みながら時姫は道兼の乱暴ぶりを心配していた。

ただ、身体的暴力は偽りでも、精神的に追い込まれ、父の操り人形となるよう仕込まれるのも、れっきとした暴力、虐待である。その事実が道兼の言葉に真実の響きを与えているのだ。

琵琶を奏でるまひろ

亡き母・ちやは(国仲涼子)の形見の琵琶を道兼の前で奏でるまひろ。彼女は第5話で「道兼を呪う」と言った。そして今、現れた母の仇と向き合い、一音一音、念を込めて弦を弾く。

聞け、お前に殺された女の声なき声を。聞け、その女の娘の恨みを。お前が今座っているのは、お前が殺した女の骸が置かれた部屋だ。ここで呪いを、その体の隅々まで染み込ませろ。

これは呪術の場面ではなかったか。まひろは右大臣家での寄坐のように、母の霊を自分の体に降ろすつもりで演奏したのではないか。しかもこの呪いを為すのは、ちやはの血を分けた娘である。どんな寄坐よりも確かだろう。

右大臣家での祈祷と寄坐を見せておいて、この琵琶演奏である。物語の巧みな構成に舌を巻いた。
緊迫感が素晴らしい。

少し脇道に逸れるが、ここでは乳母・いと(信川清順)が印象的だ。彼女はちやはの亡骸も、為時家族の嘆きも、その後の父娘の確執も、7年間ずっと見てきている。それ故に道兼を迎えたという事の重大さに青ざめ、盃を受けず去る。
ここ数話、まひろへの文をチェックしようとしたり、為時に右大臣の間者をやめないでくれと泣いて頼むなど、家人(けにん)としての身分を超えたようなそぶりのあった彼女だが、長年ともに暮らしてきた人間としての息づかいがそこにあった。

そう、家人も人間なのである。この作品は、彼女だけでなく乙丸(矢部太郎)百舌彦(本多力)など、貴族に仕える者の存在が大きい。

兼家と安倍晴明の策謀

道兼を花山帝に繋いでしまう為時。

倒れたのは本当だとしても、兼家は早い段階で回復していたのか。そしてこれをチャンスとし、花山帝のすぐ傍に道兼を送り込む作戦を立てたのか……それとも、最初から倒れることそのものが芝居だったのか。敢えて弱ったように見せて油断させ、反転攻勢に出るのは兵法の常道である。
いずれにせよ、為時は、道兼が花山帝に辿り着くための蔓にすぎない。

この企みは一体どこから始まっていて、策謀に加担しているのは誰だ。

第7話で為時から「自分を信じる帝をこれ以上騙すのは心苦しい」と相談を受けたときに兼家は、もう間者としては役に立たぬが、そうか。この男はそれほど帝に信頼されているのか。これは使えるな…と思っていたのではないか。宣孝(佐々木蔵之介)が言う「右大臣様が一度掴んだものを簡単に手放すとは思えぬ」とは、まさにこういったことを指しているのだろう。

そして、道兼は勿論だが、兼家と二人きりになった人物は右大臣家の兄弟妹以外にもう一人いる。
「瘴気が酷い」と人払いした、安倍晴明……。このとき、兼家と謀について話したのではあるまいか。晴明は、右大臣に忯子の霊が憑いて兼家が弱っていると花山帝に報告した。自分に疑いがかかるのはまずいから、呪詛については「わかりません」と言った。その作為的な物言いが、花山帝と義懐らを油断させる作戦の片棒を担いでいるのではという疑惑を深める。

捕縛された直秀

ついに捕まった盗賊団。都を離れる前に、今をときめく、そして散楽でさんざんネタにした右大臣家に盗みに入ろうと仲間内で決めたのか。

直秀、自分ひとりなら逃げられたかもしれないのに、捕まった仲間のために取って返して……どこまでもカッコいい男である。

覆面を取られた直秀を前にした道長。
道長も自分ひとりなら見過ごせたろうが、武者たちが一味もろとも捕らえたとなると、解き放てとは言えぬ。そして道長は矢傷の指摘による牽制は通じていると思ったのだろうに、直秀は東三条邸に盗みに入り、そして捕縛された。

道長はこれで友を失う。やり場のない感情が表面に噴き出し、凄まじい表情となっていた。あんな顔が演技でできるのだな……さすが柄本佑だ。

8話のサブテーマ

第8話は、直秀の芝居から始まって、晴明、寄坐、兼家、道兼……偽るために何かを演じる者がサブテーマであったように思える。どこまでが真実でどこからが芝居か。どの人物も、その辺りが霧に包まれている。
そして呪術の影が色濃い物語だった。

次週予告。
……直秀、大丈夫ですよね? 遠い国って、その遠い国に直秀が旅立つとかじゃないですよね? 気が気でない。
第9話が、楽しみなような怖いような。

*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天
『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天
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