細川亜衣さんと食について考える。② | トピックス | クロワッサン オンライン
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細川亜衣さんと食について考える。②

震度7の地震に見舞われ、その後も断続的に余震が続く熊本。この地に暮らす料理家の細川亜衣さんが、信頼する有機農家たから農園の高田夫妻のもとを訪ね、食について考えました。
  • 撮影・徳永彩
細川さんと、高田夫妻。熊本県宇城市の高田さん宅の居間にて。風通しよく心地いい日本家屋。

早朝から収穫に取り掛かる高田和加奈さん、泰運さん夫妻は、大きく育ったナスやキュウリを手に、最高の笑顔を見せる。

「なんでもないように見えると思うけれど、赤ナスがこんなに大きく実ってこの早い時季に収穫できるのは初めてなんです」と、教えてくれた。

もともと東京でデスクワークをしていたという和加奈さん。有機農家に滞在し畑の作業ができるWWOOF(ウーフ)というシステムを利用して山梨の農園に手伝いに行ったのが、この道に入るきっかけだ。

「今まで経験したことの中で、もっとも楽しいことでした」(和加奈さん)

高田家のお茶請けの定番は、甘く煮た生 姜を乾燥させて作る生姜糖(手前)。

その後、泰運さんと結婚して、東京・高尾に暮らしつつ趣味で野菜を育てていたけれど、

「やっぱり農業がしたくて、本格的に研修に行きたいと打ち明けたら、夫が自分も行くと言ってくれて。最初は、私のせいでトラクターに乗っている……!、と思って見ていたけれど、今は彼のほうが熱心なくらいなんですよ」(和加奈さん)

その時の研修先が、熊本の有機生姜の生産者。たから農園も生姜が名物だ。そして、その研修中に初めて知ったのが、タネの大切さ。

「固定種を積極的に扱っているのも高田さんの特徴ですよね。知らない野菜に出合えるきっかけにもなります」(細川さん)

「以前は人参は人参、大根は大根としか思っていなかったんです。ところが、品種によって味も形も用途も違う! おもしろい! ただ、個性的でも流通に向かない固定種のタネは、農家が育てるのをやめるとすぐに消えてなくなってしまうから切実なんです。固定種の野菜は身近な絶滅危惧種だと知りました」(和加奈さん)

一般に流通している野菜のほとんどは、F1種といって固定種を交配させて効率よく育てられるようにしたもの。ところが、F1種から同じ性質のタネを採ることはできない。一代限りで、翌年にはまた新たにタネを買うしかないという。一方、固定種は、野菜を収穫しつつタネ用に選んだ実や株を育てて採種すれば、翌年以降につなげることができ、長年作り続ければタネが土地に適応していく。

下が収穫するズッキーニ。上の大きな個体は、 タネを採るために完熟させているもの。

「これが簡単ではなくて。たとえば、タネは熟すのが大切だけれど熟し過ぎて土に落ちたら、もう拾えない。つまり完熟していて自然に落ちる直前に採って干すのがいちばん。ただ、このタイミングが難しい。手間がかかっても私たちがタネを採ろうと思うのは、おいしいと思った品種の野菜をずっと育てたいから。これいいな、と思うタネが次の年に手に入らないのは、農家にとって死活問題ですから」(泰運さん)

「軒先にあるのもタネ?」(細川さん)

「大好きな源助大根。ずんぐりむっくりした太くて短めの大根です。柔らかくて水分が多くて」(和加奈さん)

「私は育てるのが得意ではないけれど、農業は素晴らしい職業だと思います。収穫まで3年とか5年とかかかることもあるのに、みんな楽しそう。本当に好きで有機をやっているから、熱くて夢に満ちあふれていると感じます。そうした生産者の方たちの姿を知って料理するのは格別。素材を生かして絶対においしくしたい」(細川さん)

軒先に干したタネは、打木源助大根、宮重 大根、九州の在来種の米良大根。
縁側に並べたお盆には、久留米ゆたかとい う品種のえんどう豆のタネなど。きれい。

『クロワッサン』931号より

●細川亜衣さん 料理家/熊本市内の泰勝寺にて、県内の有機野菜生産者を集めたマルシェを月1回開催。この秋に、50品ほどの野菜のレシピ本をリトルモアより出版予定。

●高田和加奈さん、泰運さん たから農園/東京から熊本県宇城市に移り住み、農業を始めて4年目。農薬や化学肥料を使わない野菜を、全国への宅配や直売所などで販売。

細川亜衣さんと食について考える。①はこちら。

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