俳優・片岡礼子さんの着物の時間──代々受け継ぐことができる着物。そこに思い出をプラスしていきたい
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・chiSa(SPEC) 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・SHUTL
袖を掴んでいるとしづ子さんと繋がり見守ってくれる、そんな気がするんです
どこか影のある女性や過去の思いを背負った訳ありの女性など、片岡礼子さんが演じる役につい目が吸い寄せられてしまう。
「明るく元気な役もあるんですよ。でも皆さんの記憶に残るのは、恨まれたり、恨んだりする役なんです(笑)。観てくださった方たちに“あの役が片岡さんだったんだ”と言ってもらえたらうれしいです。作品の中の景色のひとつになれたら、と思っています」
20歳の時にスクリーンデビューし、以後、数々の映画やドラマに出演している片岡さん。その中でも忘れられない役があるという。それが今回の着物と深く関係している。
「2009年にNHK FMシアター『しづ子〜魂の俳句』で主人公・鈴木しづ子を演じることになったんです」
鈴木しづ子は戦後、奔放な作風で俳壇に颯爽と登場した若手女性俳人。ダンサーとして働きながら駐留米国黒人兵伍長と暮らし、伍長が帰国後に、2冊の句集を残し失踪。『幻の俳人』と呼ばれている。
「役作りのため、しづ子さんの資料を読み込んでいる中で、着物姿のしづ子さんを見つけました。モノクロ写真なので色はわかりませんが、紬のような着物をキリリと着こなし、カメラを見すえた姿がカッコよくて。そこに、筋が通った彼女の生き様を感じました。だから、最初の本読みには絶対に着物で行きたいと思ったんです。でも……」
はたと、しづ子さんを彷彿とさせる着物がないことに気がつく。
「ネットなどで検索したところ、祐天寺(東京・目黒区)でリユースの着物も扱う『洒落きもの 助六』の着物がイメージに近かったんです。矢も盾もたまらずに店に向かいました」
そこで俳優であること、今度、このような女性の半生記を演じること、最初の本読みにはどうしても着物で行きたい、でも予算はこれしかない、などを一方的に話した。
「着物で行きたい、この思いだけがあり、自分の心の中に台本をしっかりと入れ込んで行きました。お店の方も困りますよね。でもね、対応してくださった女将さんがとにかく素敵だった。『わかりました。これはどうですか?』と奥から出してきてくださったのが今回の着物と帯です」
濃いグレー地に小菊や萩、梅や笹といった四季の草花を裂取り(異なる柄や布を菱形などに切り取り、パッチワークのように繋ぎ合わせた模様)のように染め分けた小紋と、ふくれ織りの袋帯だ。
「しづ子さんがこの着物を着ている姿が目に浮かびました。もちろん、本読みにはこの着物で。その後、着物に詳しい友人に見せたところ“あなたの予算では到底購入できないと思う”と。女将さんのお心に感謝しかありません。今思うと、これが着物に惚れたきっかけだったような気がします」
今回の撮影現場で片岡さんがこう言った。
「袖を掴んでいていいですか? こうするとしづ子さんに見守ってもらっているような気がするんです。この着物が私としづ子さんを繋げてくれたように、人それぞれに物語が生まれるのが着物の魅力のひとつだと思います。日本文化のルーツでもあり、一枚の布が立体になるおもしろさもあります。そしてなにより代々受け継ぐことができる。さらにそこに思い出もプラスしていけたらいいですね」
『クロワッサン』1172号より
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