【俳優・のんさんに聞いた】言葉にならない思いを、信じ続けるということ──映画『平行と垂直』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・町野泉美 ヘア&メイク・菅野史絵 文・長嶺葉月
自閉症の兄・大貴と、結婚を控えた妹・希。のんさんが演じる希は、兄を大切に思う気持ちと、自分の幸せを選びたい気持ちの間で揺れ動く。映画『平行と垂直』は、そんな兄妹がそれぞれの人生に向き合い、新しい関係を築いていく姿を描く。
「二人の家族の物語だなと思いました。自分の気持ちを言葉にするのが苦手な家族に対して、どんなふうに対話をしていけばいいんだろう、どんなふうに受け止めたらいいんだろうと葛藤する。でも一方で、言葉にしなくても分かり合えることができるかもしれない、そんな希望を感じられる映画でした」
希は、兄のために自分を犠牲にする人物ではない。むしろ、兄に振り回されながらも、その存在に支えられている面もある。その複雑さこそが、希という人物の核なのだと、のんさんは捉えた。
「手がかかる兄だと思っている反面、大貴がいるから頑張れる側面もあるんじゃないかと想像しました。その相互の支え合いがあるから、希は希らしくいられる」
撮影前には、障がいのある人の家族や支援の現場にいる人たちの話を聞いた。心に残ったのは、障がいのあるきょうだいと暮らす人の言葉。
「言葉や反応だけでは本心は確かめられない。実際どう思っているかは分からないけど、『きっとこう思ってくれているだろう』と自分なりの解釈を信じてコミュニケーションを重ねている。その話を聞き、希もきっと、大貴はこう思ってくれているはずという期待を持ちながら日々接しているのかもしれないな、と」
互いを思いやりながらも、ときには遠慮なくぶつかり合う。兄妹の関係性を形づくる上で大きなヒントになったのは、原案・脚本の山野海さんが作品に込めた思い。
「山野さんは『笑っとけばなんとかなる』という思いを、この作品でも大事にされていると言っています。希はシリアスな場面になると、冗談めかして空気を和らげようとするのですが、その行動が腑に落ちたんです。つらいときこそ、明るさや冗談で乗り切ることが、この兄妹が生活していくための知恵だったと」
そして、のんさんが「一番好きなシーン」だと挙げてくれたのが、映画の終盤で、大貴が希に返す「おあいこ」という一言。
「それまで希は、自分ばかりが兄を支えてきたと思っていたんです。でも『おあいこ』と言われて、大貴もまた希との関係を『お互いさま』と受け止めていたことに気づく。『ちゃんと私のことを分かってくれていたんだ』と、二人の心が重なり合う温かな瞬間でもありました」
『平行と垂直』
自閉スペクトラム症の兄・大貴と、幼い頃から兄を支えながらカウンセラーとして働く妹・希。希の婚約をきっかけに、兄妹は互いの過去と未来に向き合い、それぞれの人生を見つめ直していく。安田章大とのんがダブル主演を務める人間ドラマ。
脚本:山野海
8月28日(金)より東京・新宿バルト9ほか全国公開。
『クロワッサン』1171号より
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