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古民家で保存食を手作りし、家族で台所に立つ暮らし。

  • 撮影・三東サイ 文・後藤真子

日々の積み重ねが、住まいを磨く

茶の間でごはんを食べ、夜はちゃぶ台を片づけて、蚊帳を張って布団で寝る。

長さ4間もある縁側と、天井の高い和室が4部屋。ふすまを開け放つとひと続きになる広々とした空間に、涼しげな緑の風が吹き抜ける。エアコンはなく、夏は窓を開けて風を通し、冬は火鉢やホットカーペット、掘りごたつで暖をとる。

住まいを整える方法も、自然の恵みを邪魔しない、無理のないやり方がしっくりくる。

「食器はマイクロファイバークロスとタワシで洗います。シンクは毎日、寝る前にタワシでこすっています。基本は洗剤なしですが、気になる汚れがあるときだけ、重曹を使います」
床は毎朝、ほうきで掃く。
「自然に返る種類のごみは、縁側から掃き出してしまいます」
さらに必要なときには、畳や床板をぞうきんで水拭き。窓ガラスも洗剤は使わず、霧吹きで水を噴霧してハンディのガラスワイパーをかけるだけ。こまめに掃除をしていれば、汚れがたまらないから、洗剤を使わなくてもきれいに落ちる。日々の作業の積み重ねが、自分を楽にしてくれて、結果として住まいも磨かれる。そんな当たり前のことを、しみじみと気づかされる。

(左)畳の目に沿ってほうきをかけるのは毎朝習慣にしている掃除。 (右)庭を眺めながらのんびり窓拭き。掃除すらも絵になる光景。

収納場所を増やすのではなく、持ち物を循環させる

それにしても家の中がすっきり片づいていて、とても気持ちがいい。
「私は、物が出ているのが好きではないので、押し入れや納戸などの収納スペースに収まり切らないようになってきたら、古いものや不要なものを人にゆずるようにしています」

新しいものがしまえなかったら、収納場所を増やすのではなく、古いものを手放して、持ち物を循環させていく。物は、しまい切れる分だけ。それが奈美さんの片づけのこつだ。
「自主保育をしていて何枚もの着替えが必要な息子の衣類は、家の納戸に収められていた桐箪笥の2段の引き出しに全部しまっています」

そのほかの家具は、古民家に似合う和箪笥や、昭和の香りが漂う古家具を、古道具店やオークションで買い求めた。もともとそうした家具が好きで、鉄瓶や漆の道具を集めていたため、手持ちのものがしっくりとこの家になじんでいる。手すき紙作家である泰宣さん作のライトシェードやふすまも、まるであつらえたように、家のそこかしこに収まっている。

(左)大地くんの衣類を収納する桐箪笥。オフシーズンのものは天袋に。 (右)泰宣さんが作った灯りやアートがさりげなく飾られている。

少しずつ暮らしを変える

「17年ほど前からぬか漬けを漬け始め、その頃からこういう暮らしを少しずつ広げてきました。そのうちに、友人の友人が古民家リフォームの建築家と知り合いだった縁で、この家に巡り合ったのです」

住んで7年。気がつけばテレビを見ることも、音楽を聴くこともなくなっていた。外の風景が美しく、鳥や虫の声がいつも響いているからだ。
「この家での暮らしの醍醐味は、時間の流れもそうだけど、何より自然に近いこと。東京は情報が多くて疲れますが(笑)、ここはストレスがありません」

奈美さんも、少しずつ暮らしを変えてきた。つまり、全部いっぺんに始めなくてもいいということ。できること、やってみたいことから始めれば、見える世界が変わってくるかもしれない。

山田奈美●「食べごと研究所」主宰。食養研究家、国際中医薬膳師。発酵教室や和の薬膳教室を開催し、雑誌やウェブでも活躍。著書に『昔ながらの知恵で暮らしを楽しむ 家しごと』(エクスナレッジ)ほか。

『クロワッサン』958号より

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