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島田順子さんのいつも胸の中にある言葉“なんじ自身を知れ”

  • 撮影・岩本慶三 文・嶌 陽子

一瞬一瞬が、学びの時間。聖書を読んでみたこともある。

もうひとつ、ソクラテスを語る際に有名な言葉であり、この本でも書かれているのが“無知の知”だ。“自分が何も知らないということを知ること”が思索の出発点になるというこの考えにも、島田さんは強く共感する。「年を取れば取るほど、そう思うようになりました。まだまだ知らないことが多すぎるって。死ぬまで勉強しても、まだ足りないと思うくらい。だから、こういう本にいろいろなことを教えてもらっているし、いつも何かに感動しているの。一瞬一瞬が、学びの時間ね」

プライベートでは、ファッション誌はほとんど読まない。昔から、一人になる時間があると、好奇心のおもむくまま、さまざまな本を読んできた。「どんなジャンルの本でも読みますよ。特に歴史ものは大好き。勉強になるから。日本の小説だと、山本周五郎や池波正太郎が好きですね。週刊誌の書評欄もよく参考にします。鹿島茂さん(フランス文学者)とか、穂村弘さん(歌人)の書評をチェックします。今はされていないけれど、以前は山崎努さん(俳優)の書評もよく参考にしていました。週刊誌を定期購読しているのは、書評を読みたいからといってもいいくらい。気になる本があると、その部分を切り抜いて、本屋さんへ持って行くこともよくあります」

『島田順子おしゃれライフス タイル』(小社刊)では、島田 さんのパリや東京での暮らし、 私服の着こなし、仕事やパー ソナルストーリーを公開。

一時期は、毎晩、聖書を読んでいたこともあるという。「私はキリスト教徒ではないのだけれど、世界中にこれだけ浸透しているあの力の正体は何なのだろうと気になって。それから、各地で起きている紛争の背景なども、聖書を読むことによって少しは理解できるんじゃないかと思ったの。ユダヤ教とキリスト教の違いも、旧約聖書と新約聖書を読み比べることによって少しずつわかってきたりしたんです」

学びたいという気持ち、世界への好奇心は、途絶えたことがない。そうして日々、新しいものを吸収すると同時に、流行の移り変わりが激しいファッションの世界で、「好きなものは変えられない」と自分のポリシーを貫いてきた。島田さんはそれを「一本道」と表現し、妥協しないことが自分にとっての“自由”なのだと語る。

「何をやってもわりと飽きっぽかった私が、デザインの仕事だけは、時には命がけで、ずっと続けてきました。苦しいことも多いけれど、続けているうちに、“ああ、いいものができた”と思える時があって、救われて。それでまた明日が来る。そんな日々ですね」今、仕事を引退していいと思えるほどには、まだ何も残していない。35年の長きにわたって、ファッション界の第一線で活躍を続けてきた人物が、そう口にする。

「自分の可能性がどこまであるかわからないけれど、“もっとよくなりたい”と日々思いながら、続けられる限りは続けていきたいわね。やっぱり、どんな仕事にしても、大事なのは好奇心と向上心じゃないかしら」

人間の魂の本質を探究して人々に伝えることを“天職”と信じ、死の間際までひたむきにその仕事に取り組んだソクラテス。“哲学の祖”ともいわれる彼は、人生最後の日まで学ぶこと、思索することを止めようとしなかった。その姿を描いたこの小説に島田さんが強く惹かれるのは、どこか自身の生き方の指針となるようなものを感じているからなのかもしれない。

『クロワッサン』955号より

●島田順子 /1941年、千葉県生まれ。’66年、渡仏。’81年パリに「JUNKOSHIMADA DESIGN STUDIO」を設立、初めてのコレクションを発表。2016年に、パリコレクション70回・35周年を迎えた。

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