くらし

線路をたどっていくと「あの頃」が見える。│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

父の十八番は井沢八郎の『あゝ上野駅』だ。集団就職と縁もゆかりもないくせに、酔うとなぜか熱唱していた。父はまだ存命だけど認知症を患っているので、もう歌えないかなぁ、どうかなぁ。わたしは中島みゆきの『ホームにて』が好き。ふるさと行きの汽車にどうしても乗れない歌詞が沁みる。なんだか自分にも遠い北国に帰れない故郷があるような気がしてくる。『なごり雪』しかり、『木綿のハンカチーフ』しかり、鉄道や駅が出てくる(古い)歌は妄想を誘発するのだ。「自分の人生にもこういう場面があったような気がする」という妄想を。

鉄道博物館で開催中の写真展では、明治・大正・昭和の鉄道マンの姿を見ることができる。13万点もの写真資料から厳選されただけあって、興味深いものばかり。蒸気機関車に石炭をくべる訓練中の機関助手たち、鉄道管理局にいた伝書鳩、昭和20年代の京都駅ホームの売店……。何気ない写真なのに、古い映画の名シーンを切り取ったよう。「この人はどんな人生だったのかなぁ」とまたぞろ妄想は膨らむのであった。

ハシゴを使っての架線保守は専用車両に取って代わられ、線路の連結作業の合図は手旗から無線に変わった。自動改札が行き渡った現在は、切符を切る駅員さんの華麗なハサミさばきを見ることもない。姿を消した特急があり、トンネルがあり、路線がある。そもそも国鉄という巨大な組織自体がはるか彼方だ。ノスタルジーにどっぷり浸かる脳裏に、あぁ、中島みゆきが響く……。

『鉄道マンの仕事アルバム 鉄博フォトアーカイブ展』
鉄道博物館(埼玉県さいたま市大宮区大成町3-47)にて6月30日まで開催。同館が所蔵する約13万点の写真資料から鉄道に従事する人々の姿や仕事の様子を中心に紹介。TEL.048-651-0088 10時〜18時(入館は17時30分まで) 火曜休館 料金・一般1,300円

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。

『クロワッサン』999号より

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