くらし

その時々の良い在り方。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

私が20代の頃のこと。あるプロジェクトの打ち合わせが差し迫り、私は担当者に向けてこちらの企画を提出していた。懸案事項は赤で記した。それらを各担当者が解決策を持ってミーティングに参加してくれることを期待して。

当時、京都在住だった私は、打ち合わせの為、新幹線に乗って上京。窓口担当者、施工業者や技術スタッフも全員揃ってのミーティング。私以外は全員40代から50代の男性で、8人程度。このミーティングでは多くの問題が解決し、制作は大きく前進する予定だった。

一通り全体像を説明した後、私は、書類に赤字で記しておいた懸案リストを読み上げる。一つ目を読み上げた後「ハイハイ、持ち帰って検討します」と。頭から解決出来ないことにがっかりしたものの、ま、仕方ない。2つ目、「オッケー、確認しまーす」。アレ?! 3つ目、「了解、追って連絡しまーす」。もしかして、この書類を事前に読んでないのかも?!という不信感が湧き上がる。

その後も10ほどの懸案事項を読み上げるだけに終わってしまったミーティング。憤りより不思議で仕方ない。以前に一緒に仕事をしたことのある人もいて、決して仕事ができない人ではなかった。

美術家として私よりずっと先輩に、飲みの席でそのことを愚痴ると、「それ、イジメだよ」と。合点がいった。

20代のキャリアも浅い女子に指示されるのは嫌だったのだろう。私が書いた図面も、「こんなの漫画やん」と、一蹴され、プロジェクション実験の際には、文句ばかり言って帰っていった。確かに色んな場面で拙さはあったろう。それでも彼らに、イジメという形しか表現方法がなかったということは、ちょっと情けない。私がもし、それがイジメだと気づくような頭のいい女子だったなら、制作を続けることを諦めていたかもしれない。いい感じに鈍感だったからこそ追い詰められることもなかった。あのときの私はそれで良かった。

それぞれ、その時々、いい在り方というのがあると思う。

今の私の在り方は、あの時のいじめっ子たちと、あの時とは違った関係で、いい仕事ができるようになっているだろうか。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は https://www.facebook.com/imostudio.imo/

『クロワッサン』993号より

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