俗に華やかな世界ほどその内実は地味と言いますが、花柳界という最もきらびやかな世界を内側から描いた本作は、汲々たる日常が生々しく綴られた、驚くほど地味な映画であります。しかし! スルメ的な噛みごたえは紛れもなく一級品。とりわけ脇を固める婆たちのあくどい芝居は必見です。つた奴の異母姉でありながら、借金に利子をつけて取り立てにやって来る賀原夏子の国宝級の嫌ったらしさ。10歳年下の男に逃げられた杉村春子は「へぇ~大変なことをおっしゃいましたよこのお嬢さん。女に男がいらないだってさ、あっはっはっは~!」とギリギリの狂態を演じ、そして大正時代の映画スター栗島すみ子は、マフィアのドンさながらの存在感を放つ。
そんな濃いめの人間模様にあって、原作者の幸田文とニアリーイコールで結ばれた田中絹代は、朱に交われど赤く染まることなく、女中ながらどこまでも高潔な人間性を感じさせます。まるで、一つの時代の終焉を見届けに遣わされた天使のような絹代……。
柳橋は20世紀の終わりに最後の料亭「いな垣」が店を畳み、花街の幕を閉じたという。