くらし

3大女優が競演! 北陸の旅情たっぷりサスペンス。『ゼロの焦点』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『ゼロの焦点』。1961年公開の松竹作品。DVDあり(販売元・松竹)

2009年に、広末涼子・中谷美紀・木村多江の布陣でリメイクされた松本清張原作の傑作サスペンス。1961年(昭和36年)公開の野村芳太郎監督版では、久我美子・高千穂ひづる・有馬稲子が主演。見合いで結ばれた夫が、結婚後わずか1週間で失踪。妻(久我美子)は彼が行方を絶った金沢へと向かう……。

物語の前半は、夫の消息をたどって妻が石川県のあちこちを鉄道で旅するシーンがつづきます。曇天と荒れた海、水気を含んだぼた雪がうず高く積もった川沿いの道、寒々しい漁村の風景など、真冬の北陸ならではのちょっと“陰”な旅情が格別です。夫に失踪された可哀想な妻だった久我美子が、じょじょに素人探偵と化し、1年後にはリベンジに打って出ます。容疑者と思われる人物をあの場所へ呼び出すのです。そう、崖へ!

いまや2時間ドラマの定番スポットとして名高い崖シーン、そのオリジンとも言える後半のクライマックスで、ヒロインのバトンが社長夫人(高千穂ひづる)に渡されます。お金持ちのマダムらしい高貴さとともに、どこか堅気じゃないような色気が混在した高千穂ひづるの、鬼気迫る演技が見事です。さらに、出演シーンは短いながら、強烈な印象で映画を丸ごとさらっていくのが有馬稲子。めちゃくちゃ可愛いアイドル顔ながら、なぜか幸薄い役どころがハマる女優さんです。ほんのひととき味わった、ある男性との幸福な時間、そして彼を失い自暴自棄になった姿。そのコントラストが涙を誘います。

立場の違う三者三様の女性が登場しますが、彼女たちが男を取り合っていがみ合うわけではなく、お互いの事情にどことなく同情を抱いているところがいい! 敗戦後の食べていくのがやっとだった時代を、女の身で生き抜くことの過酷さを共有しているせいかもしれません。それを体現するかのように、女優たちがそれぞれの個性を引き立て、ヒロインのバトンをつないでいるようなストーリーラインにも、なんだかぐっときました。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』987号より

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