くらし

いまこそ観るべき! リベラル&フェミな永遠の名作。『青い山脈』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『青い山脈』。1949年公開の東宝作品。DVDあり(販売元・東宝)

敗戦によって、価値観が文字通りひっくり返った戦後の日本。個人の自由や権利を軽んじる封建的な考え方が暴走した軍国主義から一転、民主主義に転換したとはよく聞きますが、その実情はどうだったのか?

戦後4年目の1949年(昭和24年)に公開された『青い山脈』は、古臭い価値観がはびこる田舎町を舞台に、女学校に赴任してきたリベラルな英語教師の島崎(原節子)と、旧弊な町の人々との価値観の軋轢を描き大ヒットしました。女学生の新子(杉葉子)が男子学生(池部良)と一緒に歩いているのを偶然見た同じクラスの女子たちは、新子への嫌がらせに偽ラブレターを送りつけ、「貞淑な校風を守りたいという愛校心からやったこと」だと開き直ります。

そのことに怒った原節子のお説教が秀逸。「学校の名誉のためとか、家のため、国家のためということで、個々の人格を束縛して無理矢理にひとつの型にはめ込もうとする。日本人のいままでの暮らしの中で、いちばん間違っていたことなんです」。この明朗なセリフ、いままた怪しくなってきている政治情勢のなかで聞くと、いっそう感慨深く響きます。

なにより、原節子のセリフと行動をよくよく見ると、彼女が怒っているのは、女性をモノ扱いする考え方そのものだということがわかります。町医者が「女学生は学校を出たら嫁に行き、姑にいじめられたり亭主に殴られたりする。そういう生活に耐えていくには、ある程度バカであることが必要なんですよ」と、さも正論のように言うと、怒りのあまり平手打ちをお見舞い。そう、島崎先生は、フェミニストだったのです!

知性と強い意志を持ち、輝くように美しい原節子。男社会を別の角度から客観視している芸者役の木暮実千代もはまり役。毅然とした顔立ちとモデルのようなスタイルで、新しい時代の空気を体現する杉葉子の、絶妙にドライなキャラクター。戦後に女性が歩んだ道の第一歩に、この3人あり、だったのです。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』990号より

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