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【しりあがり寿×渡辺晋輔】知れば知るほど、面白い。「ルーベンス展」を攻略する。

バロック美術と聞いて難しいと思う人は確かに多いが……。漫画家・しりあがり寿さんと考えるその真の魅力。

撮影・谷 尚樹 文・黒澤 彩 漫画・しりあがり寿

小ネタ、裏テーマを盛り込むのは超インテリ画家のなせる技。

「肉体の描き方がすごい。ヌードもかなりの迫力!」(しりあがりさん)
「肉体の描き方がすごい。ヌードもかなりの迫力!」(しりあがりさん)

しりあがり 実は『フランダースの犬』のアニメは見ていないんです。でも、原作は小学生の頃に読んで、夜中に一人で泣いちゃったなぁ。ネロとパトラッシュが見た祭壇画は、やっぱり代表作なんでしょうか。

渡辺 そうですね。ただ、ルーベンスにしては静かな絵です。悲劇的でドラマチックなところが、『フランダースの犬』の作者の琴線に触れたのでしょう。これらの絵には、一見、主題とは無関係な聖書のモチーフも多く描かれています。三連画の《キリスト降架》には、必ず誰かがキリストを担いでいるという裏テーマもあるんですけど、気づかれましたか?

しりあがり 本当だ。中央と左右の絵はどれも誰かがキリストを担いでいる場面ですね。そういうふうに絵を読み解く楽しみを仕込んであると。

渡辺 そこに画家の知性が表れます。

しりあがり 宗教画はそうでもないけれど、神話がモチーフの絵では肉体の表現が過剰というか、すごい。泰西名画ではたいてい、人の体がぐにゃぐにゃと迫力満点で圧倒されちゃうのですが、どうしてこんなふうに肉体を強調して描くのでしょう。

渡辺 古代は、身体の表現が美術の根本だったのです。ルネサンス期にそこに回帰して、人体をどう描くかが画家としての表現の発露になりました。もちろんルーベンスも然りです。

しりあがり あまりに裸が多いから、仲間と「これって当時のエロ本じゃないか」なんて言っていました。

渡辺 古代の神様というのは裸だから、服を着ていたらむしろ変なんです。《キリスト降架》の裏テーマのように、絵の中にいろいろな要素があることが大事で、官能的であることも引き出しの一つ。ただエロいというだけではないんです。

しりあがり なるほど、神様だから裸なんですね。とはいっても、サスペンス劇場の入浴シーンみたいに、サービス精神も多少はあったのかも?と勘ぐりたくなります。ルーベンスの絵には、どちらかというと女性ヌードが多いけど、得意だったのかな。

渡辺 若い頃は女性の裸を描くのがあまり上手じゃなかったのですが、イタリアで修業をしてうまくなりました。ルーベンスはイタリア美術に大きな影響を受けていて、それは今回の展覧会のテーマにもなっています。

「五感に働きかけるような身体表現は腕の見せどころです」(渡辺さん)
「五感に働きかけるような身体表現は腕の見せどころです」(渡辺さん)
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