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【しりあがり寿×渡辺晋輔】知れば知るほど、面白い。「ルーベンス展」を攻略する。

バロック美術と聞いて難しいと思う人は確かに多いが……。漫画家・しりあがり寿さんと考えるその真の魅力。
  • 撮影・谷 尚樹 文・黒澤 彩 漫画・しりあがり寿
※作品はすべてペーテル・パウル・ルーベンス 《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》 1615-16年 ファドゥーツ/ウィーン、 リヒテンシュタイン侯爵家コレクション ©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections,Vaduz-Vienna

ルーベンスと聞いて、思い浮かぶのは? そう、アニメ『フランダースの犬』で、主人公の少年ネロがいつか見たいと願い続け、最期についに目にすることのできたのが、アントウェルペン大聖堂にあるルーベンスの祭壇画。なぜ、ネロはそれほどにこの絵を見たかったのか? ヨーロッパでは絶大な人気を誇る画家の魅力を、漫画家のしりあがり寿さんが探ります。教えてくれるのは、『ルーベンス展』を監修した国立西洋美術館の渡辺晋輔さん。まずは、しりあがりさんが抱くルーベンスのイメージを聞いてみました。

(左)国立西洋美術館主任研究員、ルーベンス展監修者 渡辺晋輔さん (右)漫画家 しりあがり寿さん

しりあがり寿さん(以下、しりあがり) ヨーロッパ美術史上の名画を「泰西名画」って言いますよね。ルーベンスはその代表という感じがします。かつて美大の卒業制作を考えていたときに、銭湯の壁画を泰西名画風に描いたら面白いんじゃないかと思って。ほら、裸の絵が多いでしょう? その裸の人たちにタオルを持たせたらいいんじゃないかと。そのとき元ネタにしようとしていたのがルーベンスの絵だったのですが、到底まねできそうもないから、やめました。

渡辺晋輔さん(以下、渡辺) たしかに代表的な泰西名画ですね。とくに後の時代、19世紀頃までのヨーロッパ美術に大きな影響を与えました。それだけルーベンスの絵画には普遍性があるということです。なぜ普遍かといえば、古代の文化やキリスト教といった、ヨーロッパの背骨ともいえるクラシックなテーマを取り入れつつ、新しい表現を生み出したから。ルーベンスを見れば、ヨーロッパ文化のメインストリームがわかる。まさに王道です。

もしも、ルーベンスの泰西名画を銭湯の壁に描いたら……? 幻に終わった卒業制作を思う。

【ルーベンスのミニ知識 1】ルーベンスとはどんな画家?

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577〜1640)は、当時はスペインが統治した、現在のベルギー西部を中心とする地域にあたるフランドル地方の画家。由緒ある家柄に生まれ、高度な教育を受けて育った。両親の故郷、アントウェルペンで画家に師事して絵の基礎を学び、1600年から’08年までイタリアに滞在。当時、美術の中心だったイタリアで古代美術やルネサンス美術をはじめ、カラヴァッジョなど同時代の画家の作風も熱心に吸収した。アントウェルペンに戻って宮廷画家になると、大規模な工房を経営して絵画や版画を制作しながら、外交官としても活躍。スペイン、イギリスなどに赴き、ヨーロッパの平和のために奔走した。

《パエトンの墜落》 1604-05年  ワシントン、ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Patron's Permanent Fund, 1990.1.1
《セネカの死》 1615-16年 マドリード、プラド美術館 ©Madrid, Museo Nacional del Prado
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