『寿限無』の楽しみ方を 詳しく解説してみます。│柳家三三「きょうも落語日和」 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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『寿限無』の楽しみ方を 詳しく解説してみます。│柳家三三「きょうも落語日和」

  • イラストレーション・勝田 文

前回「寿限無」という落語は有名だけれどウケないから演じられる回数が少ない。けれど実は面白いんです︱︱というお話をしたら「なぜウケなくて、本当はどこが面白いの?」というお尋ねがありました。今回はそのあたりを少々詳しく……。

「寿限無」を落語家が演じるときは、父親に長い名前をつけられた“寿限無~~”君にぶたれてコブができたと友達が言いつけに→母親が名前をくり返す→父親も名前をくり返す……という部分で“笑いをとろうとする”演者が大部分です。そこでくり返すタイミングに変化をつけたり、お客さんが内容を知っている前提で裏をかいたりと、“技術”で笑わせるという落語家の意思が強く表れてしまいます。

でもこの噺は、待望の男の子に長生きしてもらいたい一心でたくさんの“めでたい名前候補”を全部つけてしまった父親・八っつぁんのあふれんばかりの親心、その結果起こってしまう馬鹿馬鹿しい騒動――そんなトンチンカンな世界を一生懸命に生きている人々の姿がほほえましいんです。言葉のはずみや意表をついたギャグで笑いを追うより、馬鹿みたいだけど親の愛がある風景にクスッとできたほうが奥行きのある楽しみが得られるように思えます。

そんな日常の一場面を高座で描けたら“落語日和”どころか“噺家冥利”です。でも落語が豊かで懐が深いのは、これが正しい答えだよなんて誰にもわからないところ。落語家が百人いれば百の、お客さん千人いれば千の、“楽しい寿限無”があるかもしれません。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』982号より

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