あわて者、そそっかしい人のことを「粗忽」と呼びまして、この粗忽者が起こすさまざまな騒動がいくつもの落語になっております。慌てて何かをやったがために失敗した、どなたでもそんな経験があるはず。粗忽の噺は、誰しも覚えのあるそそっかしいエピソードで共感してもらうこともありますが、だいたいは常人の想像の上をゆく突飛なことをしでかすのが落語界の粗忽者です。
私自身は以前、粗忽の噺を演じるのが苦手でした。あわて者がいろいろ間違えるのを「決められたとおり、ちゃんと間違えてます」みたいにお客さまに感じさせてしまったようです。それを払拭できたのは、ある師匠がこの噺のオチを間違えてしまった場面に遭遇したから。
「そそっかしいヤツなんだから、どう言い間違えたっていい」と、まるで意に介していない様子。なるほどと、自分でも肩の力を抜いて演じてみると、お客さまの反応も変わり、今では良き落語日和を味わいながら演じられる噺になっています。