『寿限無』が高座で 演じられない理由は?│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
日本でいちばん有名な落語はおそらく「寿限無」ではないかと思います。落語好きなかたでこの噺の存在を知らない人はほとんどおいでにならないでしょうし、落語というものの存在をご存じなくても、長ぁい名前のついた子供の話を知っているかたが大勢おいでのようです。小学校などで「寿限無」を知っているか子供達に尋ねると“長い名前、言えるよ”という声をホントによく聞き、うれしい限りです。
ところがいざ「寿限無」を落語家が高座で演じているのを聴いたことのあるかたとなると、案外少ないのです。
先日、仏教と落語という視点で企画された会で“名付け”をテーマにするので「寿限無」を演じてくださいと注文されました。
お客様約三百人は落語ファンと仏教に関心のあるかた、半々くらいという割合でした。私は高座でお客様にアンケートをとらせていただいたのです。
(1)「寿限無」という噺を知っていますか。
(2)落語家が演じる「寿限無」を生で聴いたことがありますか。
以上の質問に“イエス”だったのは(1)ではほぼ全員、ところが(2)では二割にも満たなかったんです。
その理由は簡単、落語家が高座で演じる回数が少ないから。少ない理由もこれまた明快で、
「ウケないんだヨ」。
ですから寄席で「寿限無」を聴けたら、けっこうラッキーな「落語日和」。でもウケないとか、他愛のない前座噺だと軽く扱われがちなこの噺、そんな先入観を捨ててよーく聴くと思いのほか、面白いんです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』981号より
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