『うなぎばか』著者、倉田タカシさんインタビュー。「義憤を傍に、楽しめる小説を描きました。」
撮影・小川朋夫 文・石飛カノ
布のような質感の紙の上でとぐろを巻いた朱色のうなぎ。インパクトのある装丁で思わずジャケ買いしましたと伝えると、倉田タカシさんは相好を崩した。
「挿画は私が描きましたが、“圧”のある表紙に仕上げてもらってとても良かったと思います」
中身をめくると、タイトルどおりテーマはうなぎ。しかももう絶滅してしまったうなぎを巡る、ちょっぴり未来の世界を描いた短編集。
「きっかけは2016年ごろ、うなぎ絶滅後の設定で小説を書いたら面白いんじゃないかとツイッターに投稿したこと。当時のツイッターを遡ってみたら、2013年くらいにはけっこう深刻に捉え始めていたみたいです。“今はみんな笑っていられるけど、2年後くらいからパニックになる人が出てくるんじゃないか”という投稿が」
危機感や義憤を傍に置きながら、目指したのはあくまでエンターテインメント。前回上梓した作品は読者を選ぶハードSFだったが、今回は一般的な読者が楽しめるエンターテインメントに徹した。
うなぎ絶滅後、行方不明になったうなぎ屋の秘伝の“たれ”争奪戦、漁業規制が厳しくなった世界で密猟を見張るうなぎ型ロボット、第二のうなぎ「山うなぎ」を求めてジャングルをいく水産加工企業の女性社員たち、うなぎの絶滅を防ごうとタイムマシンに乗って土用の丑の広告をやめるよう平賀源内にお願いにいく青年ふたり。
「ロボットやタイムマシンやパラレルワールドはSFによく出てくる手法ですが、どれも一般的に馴染みあるもの。今回は今までと違うことをやろうと敢えてそういうものを選んで書きました。そんな決意の割に、ふたを開けてみると、やっぱりいつもの自分の書くものだなと」
“いつもの自分の核”となるのは、
「エモーショナルであること。情緒については前面に出すというところです」
一方で、うなぎが滅んだ理由も、どういう経緯で滅んでいったかも一切説明はない。イルカや犬は食べちゃダメで、うなぎは殺して食べていいのかという食の倫理についての見解も時折顔を出すものの、突っ込んだ描写はされていない。
「想像の余地を残したい、余白が大きいものを作りたいという気持ちが強いんです。以前、人から“読者を信用している”と言われたことがあります。編集者からは“読者を信用しすぎている”と言われたことも(笑)」
そして、余白にドキッとさせられた読み手は考える。ものを食べるとはどういうことなのか?と。
早川書房 1,400円
『クロワッサン』980号より
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