「親父に言われたのは、『遅くてもいいから丁寧にやりなさい。パン作りはそんなに難しいもんじゃない。違うものがあるとしたら気持ちだ』ってこと。不器用な俺がパン屋になったのは、優しい親父が好きだったからだね」
昔は近隣の学校の生徒が朝から並んでいたが、今はそんな光景も見られなくなった。以前と比べるとお客さんはずいぶん減ったという。それでも、夜の7時ごろに買いに来る親子が数組いるから、早くに店は閉められないと笑う関さんは、先代に劣らず心優しい人だ。
「おいしくて安いから、長年通ってるの。関さんとのおしゃべりも楽しみ」
「子どもはカスタードホイップが大好物。口の周りを白くして食べてます」
取材中に出会ったお客さんの声からも、パンと関さんが愛されていることが伝わってくる。身も心もほどける甘いパンは、翌朝のおめざにするのもよし、すぐおやつにするのもよし。昭和の貴重な味と心意気を残すこの店が、少しでも長く続いてくれますように。