ひとくち頬張ると、なぜか子どもの頃に戻ったような気持ちになる。そんなパンの数々に出合えるのが、東京・世田谷区にある、大英堂製パン店だ。京王線・明大前駅から歩くこと数分。ショーケースに並んだパンを見て注文する、対面式販売も懐かしい。
もともと大英堂製パン店は大正時代に三軒茶屋で開業したのが始まり。そこから暖簾分けするかたちで、都内に次々と店ができた。現在の店主、関利博さんの父親がこの地に店を開いたのは昭和43年。同時期に9店舗あった時代もあったが、現在残るのは、ここを含めて2店のみだ。両親が他界した今は、67歳の関さんが一人で店を切り盛りする。20種類ほどの菓子パンや惣菜パンを効率のよい手順で次々に焼き上げ、合間に接客もこなす。
「俺、パンの原理は知らないんだよ。勉強したわけじゃなく、親父がやっていたとおりに作ってるだけだから」
そう話す関さんだが、この店のパンの特徴について丁寧に説明してくれた。
「うちは生地に入れる砂糖の割合が他の店より多いの。だから柔らかいし、パサつきがない。でも、砂糖が多いと、膨らみにくくなる。だから、小ぶりに成形するなどの工夫をしてますね」
確かに、この店のパンに懐かしさを感じるのは、ほんのり甘い生地のせいかもしれない。中に詰まっているのは、自家製のカスタードやチョコクリームなど。どれもが昔ながらの方法で作られた、奇をてらわない、素朴な味だ。