自分を労りながら、整えながら。日々を支えるのは豊かな朝の時間。
バゲットとカンパーニュを買った猫沢さんが作ってくれたのは、パリの思い出が詰まった2品。昔、友人宅に泊まったときにふるまわれたいちごのタルティーヌ、そしてクロックマダム。
「いちごが出回る時季にこれを作るたび、郊外の緑豊かな庭や空気を思い出します。あ、バターは無塩です。甘い味のものに有塩バターって、フランス人にはちょっと抵抗があるみたいで」
白米にお砂糖かけるような感覚なのかもしれないですねえ、などと他愛のない話をするうち、話題は、猫沢さんのフランス人の恋人のことに。昨年、初めて彼が日本にやってきたという。
「彼が来た途端、自分の部屋に違う時間が流れ始めたという劇的な感覚がありました。日本はせわしなくて、朝からのんびりしてるとちょっと罪悪感がある。でも、彼を含め大方のフランス人は、だったら30分早く起きて朝のリズムをつくれば、残りの23時間半をもっと楽しく美しく過ごせるじゃないか、って思ってる。実は彼の滞在中、大げんかしたんですよ。そんなに朝ごはんが大事かよ!って(笑)。でも、朝をゆったり過ごすその感じに、すごく救われもしたんですよね」
ワーカホリックを自認しながらも、50代を目前に、心境の変化が。
「自分が幸せでいられるように日々を組み立てていきたい。そのためなら一度作った居心地のいい巣を出てもいい。生活って何のためにあるのか、何のための仕事かって最近思うんです。常にベストコンディションでいれば自分の想像をこえる明日になる。それを積み重ねていくのが人生じゃないかなって。さあ、クロックマダムが焼けました!」