くらし

【後編】猫沢エミさんの「パンがある朝の食卓」。食べたいものは身体に訊く、 海苔たまサンドか苺タルティーヌか。

  • 撮影・三東サイ

大好きなビーバーブレッドのパンでパリの思い出を再現。

【友人の庭で過ごした 春の日の朝が甦る。いちごのタルティーヌ】バゲットに無塩バターを塗り、スライスしたいちごを並べたら、きび砂糖を景気よくふりかける。
【熟成したチーズをのせ、 厚めのパンを堪能。クロックマダム 】作り置きしてあるベシャメルソースを生クリームでのばし、スープキューブ(ビオのもの)と塩で味をつける。厚めにスライスしたカンパーニュにベシャメルソースをのせ、白こしょうをふり、削ったグリュイエルチーズをたっぷりのせたら、予熱しておいたオーブンで焼く。その間にフライパンにバターをひき、ごくごく弱火で目玉焼きを作る。焼きあがったパンにのせて完成。

自分を労りながら、整えながら。日々を支えるのは豊かな朝の時間。

バゲットとカンパーニュを買った猫沢さんが作ってくれたのは、パリの思い出が詰まった2品。昔、友人宅に泊まったときにふるまわれたいちごのタルティーヌ、そしてクロックマダム。

「いちごが出回る時季にこれを作るたび、郊外の緑豊かな庭や空気を思い出します。あ、バターは無塩です。甘い味のものに有塩バターって、フランス人にはちょっと抵抗があるみたいで」

白米にお砂糖かけるような感覚なのかもしれないですねえ、などと他愛のない話をするうち、話題は、猫沢さんのフランス人の恋人のことに。昨年、初めて彼が日本にやってきたという。

「彼が来た途端、自分の部屋に違う時間が流れ始めたという劇的な感覚がありました。日本はせわしなくて、朝からのんびりしてるとちょっと罪悪感がある。でも、彼を含め大方のフランス人は、だったら30分早く起きて朝のリズムをつくれば、残りの23時間半をもっと楽しく美しく過ごせるじゃないか、って思ってる。実は彼の滞在中、大げんかしたんですよ。そんなに朝ごはんが大事かよ!って(笑)。でも、朝をゆったり過ごすその感じに、すごく救われもしたんですよね」

ワーカホリックを自認しながらも、50代を目前に、心境の変化が。

「自分が幸せでいられるように日々を組み立てていきたい。そのためなら一度作った居心地のいい巣を出てもいい。生活って何のためにあるのか、何のための仕事かって最近思うんです。常にベストコンディションでいれば自分の想像をこえる明日になる。それを積み重ねていくのが人生じゃないかなって。さあ、クロックマダムが焼けました!」

壁に山崎さんの詩が。その下は割田さんの息子が描いたというビーバーの絵。

猫沢エミ(ねこざわ・えみ)●1970年生まれ。フランス語講座『にゃんフラ』を主宰、2匹の猫、ピガピンジェリ(兄)とユピテル(弟)と暮らす。著書に『東京下町時間』『フランスの更紗手帖』ほか。4月13日には東京・ティアラこうとうにてEmi Necozawa&Sphinxのライブを行う。

『クロワッサン』971号より

1 2 3
この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間